目次
内閣文庫本『醒睡笑』:安楽庵策伝
凡例
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履歴
序
巻之一
謂へば謂はるる物の由来
落書
ふはとのる
鈍副子
無智の僧
祝ひ過ぎるも異なもの
巻之二
名付け親方
貴人の行跡
躻(うつけ)
吝太郎(しはたらう)
賢だて
巻之三
文字知り顔
不文字
文の品々
自堕落
清僧
巻之四
聞こえた批判
いやな批判
そでない合点
唯あり
巻之五
婲心(きやしやごころ)
上戸
人はそだち
巻之六
児の噂
若道知らず
恋のみち
悋気
詮ない秘密
推はちがうた
うそつき
巻之七
思の色を外にいふ
いひ損ひはなほらぬ
似合うたのぞみ
廃忘
謡
舞
巻之八
頓作(とんさく)
平家
かすり
秀句
茶の湯
祝ひすました
跋・奥書
内閣文庫本『醒睡笑』:安楽庵策伝
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作品名
醒睡笑
作者名
安楽庵策伝
底本
内閣文庫本
影印
国立公文書館デジタルアーカイブ『醒睡笑』
ライセンス
著作権者
中川聡/Satoshi Nakagawa
ソース
sesuisho_1.0.zip
凡例
この電子テキストは『
醒睡笑
』の校訂本文と翻刻です。
底本は内閣文庫本です。
校訂本文について
章段は底本によりました。
濁点、句読点、鉤括弧を付け、適宜段落分けしました。
適宜漢字表記に改め、送り仮名、仮名遣いを修正しました。
あきらかな誤写は訂正し、注を付けました。
翻刻について
漢字の直後のものを除き、繰り返し記号はなおしました。
ミセケチ・訂正・傍書による補入等は本文に組み入れました。
本文に存在する読み仮名はカッコに入れました。
「/n1-6r」とあるのは、
国立公文書館デジタルアーカイブ『醒睡笑』
のNo1(巻1)6ページ右側を意味します。
翻刻部分は著作権が存在しません。ご自由にお使いください。
テキスト作成にあたり、下記の影印本・注釈書等を参考にしました。
角川文庫『醒睡笑』上・下(鈴木棠三校注・角川書店・上 昭和39年8月、下 昭和39年10月)
岩波文庫『醒睡笑』上・下(鈴木棠三校注・岩波書店・上 1986年6月、下 1986年9月)
古典文庫第153冊『醒睡笑(寛永版)』(古典文庫・昭和35年4月)
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履歴
2021/03/30 入力開始
2023/08/16
Ver1.0
公開
序
醒睡笑序
巻之一
巻之一目録
謂へば謂はるる物の由来
1 そらごとを言ふ者をなどうそつきとは言ひならはせし・・・
2 いづれも同じことなるを常にたくをば風呂といひ・・・
3 海藻の類に御期といふ藻あり・・・
4 よろづ物のむさきことをきたないとはいかに・・・
5 宗祇宗長と連れ立ち浦の夕に立ち出であそばれしに・・・
6 随八百とは何をいふ・・・
7 餅をかちんとは・・・
8 餅のちと赤きやうなるをしんかうといふこと・・・
9 河内の国に珍といふあり大和に場といふあり・・・
10 急がば廻れといふことはものごとにあるべき遠慮なり・・・
11 和州より出づるぼてんといふ瓜は・・・
12 瓜の糟漬けを奈良漬といふことは・・・
13 何事も油断の様に取り合ひの遅きをぬかるといふなる・・・
14 何しても水に入りたる物を湯いりとは何しにいふぞや・・・
15 こぼれ幸ひとは何をいふ・・・
16 物を無用といふ言葉のかはりによしにせよといふは・・・
17 痩法師の酢好みとは・・・
18 なべて上臈方にはさくぢといふを禁中にはまちかねとかや・・・
19 わらんべは風の子と知る知らず世に言ふは何事ぞ・・・
20 山城の国伏見のつづきに法性寺といふ在所あり・・・
21 昌叱のもとへ行き米を三袋送りければ・・・
22 鬼に瘤を取られたといふこと何ぞ・・・
23 朝謡はうたはぬことともまた朝謡は貧乏の相とも言ひ伝へたり・・・
24 へちまの皮とも思はぬとは・・・
25 世間に下手なる者を饂飩食らひといふことは・・・
26 七歩と濡るるとは何事ぞ・・・
27 鵜のまねする烏は大水を飲むとは何ぞ・・・
28 豆腐を串に刺して焙るをなど田楽とはいふ・・・
29 僧の米を持ち寄りて食するを打飯とはいかでいふ・・・
30 ある人北野にこもりて寺地を祈りければ・・・
31 鰯をは上臈方の言葉にむらさきともてはやさるる・・・
32 理をば非になし非をは理になし・・・
33 あはてふためき前後を忘じたるをとち目になつて尋ねたは・・・
34 月次の連歌にて宗匠たる人朝朗といふ詞をせられたれば・・・
35 遣唐使唐土にある間に子あり・・・
36 旦九郎といふ兄あり性鈍にして富めり・・・
37 娘一人に聟三人といふことは・・・
38 丹後国与謝郡に浅茂川の明神と申す神います・・・
39 ある人いはく貫之が年ごろ住みける家の跡は・・・
40 京にて乗物をかきあるひは庭にて働く男を六尺とはなどいふならん・・・
41 世話に鬼味噌といふは何ぞ・・・
42 芋掘僧とはいかなる因縁ありていふ言葉ぞや・・・
43 娑婆で見た弥次郎かともいはぬとは何ぞ・・・
落書
1 田中の真宗とかやいふ者小さき茄子の茶入を所持し・・・
2 さやの宗久といふ者初花の茶入れを持ちてゐたりしに・・・
3 信長公諸大名を寄せ給ひ馬揃へあそばし・・・
4 信長公始めて京都に石垣の普請仰せ付けられ・・・
5 信長公洛中に御普請の時余国よりも都へ方角近きゆゑ・・・
6 摂津国高槻の城主なりし和田といふ侍信長公御前世に越えて出頭顔なり・・・
7 山門より三井寺を打ち破り鐘を叡山へ取りし時・・・
8 美濃国にて土岐殿と斎藤山城守取りあひてつひに土岐殿方負けになりしころ・・・
9 信長公の御前にてただちに理を御すましなされたりし公事あり・・・
10 秀吉公の御時ならかしといふことあり・・・
11 摂津国蟻岡の城を信長公取り巻きておはせしに・・・
12 越中の太守神保殿は美濃の土岐殿の聟にてありし・・・
13 江州六角佐々木四郎と三好家と取り合ひ・・・
14 伊勢の桑名にて法華宗門のうち一致勝劣の争論出で来・・・
15 紀州根来より普光院御所へ言上し覚鑁の大師号を望み・・・
16 紀伊国にて湯の川といふ侍諸大夫になられたれば・・・
17 宗長は江州にて進藤といふ武士の養子なり・・・
18 山崎にて上の殿へ下の殿の日記箱を取りておき何と乞へども渡さず・・・
19 甲斐国武田信虎公の息女を菊亭殿へ契約ありしが・・・
20 三井寺に一山相談のことありて幾度も鐘を撞き集会はあれども・・・
21 諸行無常を無常諸行と書きたる卒都婆のわきに・・・
22 荒木摂津守蟻岡の城を退出の跡に・・・
23 いつのころかとよ日吉大夫山城のといふ所にて勧進能ありつるに・・・
24 奈良の春日山に朽木のしたたかなるがころびていくらともなくあり・・・
25 祇公周防の山口へ下向ありつれば・・・
26 妙心寺の僧に金蔵主といふあり・・・
27 大頭勧進舞のワキに笠屋ツレに池淵といふ者なりしが折節悪う雨降りし・・・
28 慈眼視衆生福寿海無量をば二句の偈といふなり・・・
29 美濃国墨俣に岸といふ侍あり・・・
30 大頭彦左衛門と弟子の黒助と何事にや間悪しくなり・・・
31 越中秋保殿の内に寺島牛介といふ侍あり・・・
32 京にて日吉大夫能をするに浮舟の始まりてよりここを先途と降りければ・・・
33 家康将軍に対し石田治部少輔心がはりつかまつり関ヶ原陣に駆け負け・・・
34 天正十八庚寅三月朔日大相国秀吉公小田原北条左京大夫氏直退治のため・・・
35 同じき三月二十九日山中の城を責め落されたれば・・・
36 西陣といふは絹屋のあまたある所なるが・・・
37 上京に誓願寺のありし時事の悪縁によりて炎上せしが・・・
38 慶長十九年の冬源将軍大阪の城へ寄せさせ給ふ時・・・
39 後柏原院の御宇に松木殿天気にかなはせ給ひて・・・
40 駿河の今川殿を松の下の弟子に取り・・・
41 越前朝倉殿に子息十二人あり・・・
42 昔能登の太守畠山殿の時不慮の取り合ひ出で来合戦のありつる・・・
43 美濃国土岐の次郎は斎藤山城守の聟にてありしを・・・
44 後陽成院御即位の日を承り聞く者市をなして参りたるが・・・
ふはとのる
1 忿怒の前には不動剣をひつさげて降魔の儀を示すことあり・・・
2 仁物らしき男朷の前後に鯛を入れ担ひ・・・
3 始めは鍛冶にてありつる者かたはらに鞠を好いて蹴たり・・・
4 卜都検校叡山にて大衆集会のみぎり平家ありし・・・
5 足利にてのことなるに塩は塩はと呼んでいかにもいつくしく若き商人来たれり・・・
6 悴侍の妻あり不思議に夫に離れぬ・・・
7 壁に耳ありといふことを忘れそんぢやうそれは中々人ではないと・・・
8 奉公人の果てとおぼしきが宿を借り四方山のことを語り尽しけり・・・
9 十ばかり斗なる娘の容顔美麗なるに・・・
10 ある人連歌の席に句を出だしけしからず慢じたる顔を見付け・・・
鈍副子
1 鈍なる弟子斎に行く・・・
2 小姓を置きてこころみに始めて茶を挽かする・・・
3 日本一の鈍なる弟子が師の噂を言ふやう・・・
4 ある寺の院主に知音の人ありて門前まで訪れられけるを・・・
5 洛陽にて浄土宗の寺へある尼公の参られ一人の弟子を呼び出だし・・・
6 三井寺に貧しき僧ありしが寺内の児に思ひを寄せ・・・
7 研屋にある小名の刀をあつらへほどふりて後宿を問ひ寄られければ・・・
8 非体戒雷震といふ観音経の文を何としても忘るれば・・・
9 病癒えて後よろこひごとの振舞ひあり・・・
10 うつけらしき坊主の方へ折節は出入りする農人ありし・・・
11 いはんかたなき鈍なる弟子あり・・・
12 鈍なる男兵庫の町を通りけるに黒犬の大きなるが出でて・・・
13 塔頭の僧途中より客をつれ立ち帰る・・・
14 石州銀山にてのことぞとよ・・・
15 福は宿善の果なれば鈍なる人にままたのしきあり・・・
16 小僧あり小夜更けて長棹を持ち庭をあなたこなたと振り回る・・・
17 始めて奉公する者ありお殿様お若う様おかみ様何しもおを付くる・・・
18 二番にかまへられたる聟殿舅の方へ始めて行く・・・
19 うつけめける亭主の腰まはりへ下衆あやまちに水をこぼしぬ・・・
20 旅人寒夜のものうさに古畳を一帖所望して着せられ・・・
21 大客のあらんよしを舅聞きつけにはかに造作をするゆゑ材木を選ばず・・・
22 人食らひ犬のあるところへは何とも行かれぬなど語るに・・・
23 京にて口脇白き男ちと出家をなぶり理屈につめて遊びたやと思ひつつ・・・
24 越中に井見の庄殿といふ大名あり世にすぐれたるうつけなりし・・・
25 若き男の聟入するといふに知音の者異見しかまへて時宜を出かせ・・・
26 田舎より主従二人始めて上洛し京の町に逗留せし・・・
27 不断光院の住持近衛殿へ参られし時三方を許すとあれば・・・
28 筆者を頼み伊勢物語を写させけるに・・・
無智の僧
1 幼少よりつひに経に向うたることもなかりし坊主千部の経に座列するあり・・・
2 大般若を転読の施主あり・・・
3 海辺の者山家に聟を持ち音信に蛸と辛螺と蛤蜊と三色を持たせやりたり・・・
4 人ありて千部の経を執行せらる・・・
5 同じく千部講読の請状参りけるに一文不知の経たつ坊あり・・・
6 博奕に打ち負け詮方なき者冬の暮れ髪を剃りて法師となり・・・
7 剃髪染衣の僧秘鍵を習ふ・・・
祝ひ過ぎるも異なもの
1 けしからずものごとに祝ふ者ありて・・・
2 和泉国に寺門といふ在所あり・・・
3 ある女房のもとに使はるる下衆の名を福といふありき・・・
4 貧乏神とわりなき知音の者ありしが・・・
5 ある者正月二日の夜夢に思ひ寄らずわが身に癩瘡出で来たる体を見・・・
6 商人の常に祈念を頼みて行き通ふ寺あり・・・
7 六十に及ぶ僧ありしが歳の暮れに風を少しひきければ・・・
8 有馬の湯に入りける者宿主と語るついでに・・・
9 信濃国より出づるなるからむしともまたはまをともいふ麻をせんと作る所あり・・・
10 行き暮れて旅人立寄り一夜の宿を借りし・・・
11 窮貧の者ありて五つ六つなる子に向ひ・・・
12 江州の坂本に侍あり元日の夜湖をひき傾けて飲むと夢見る・・・
13 和泉国に大鳥といふ在所あり・・・
14 商人元日に恵方より持ち来たる若夷を向へんと思ひ・・・
15 春の始めの朝より千秋万歳ともまた鳥追ともいふかや・・・
16 元三を祝ひ膳部取り集めめでたいなといろいろしたためて座りぬ・・・
17 こびたる禅門山林に行き暮れて一宿せり・・・
18 町人のもの祝ひするあり・・・
19 大晦日(おほつごもり)に、六つなる息子を近付け・・・
20 陸奥の者を中間に置きたり・・・
21 人にすぐれてもの祝ふ侍今夜の夢に梟が家の内へ・・・
22 尾州に米野与兵衛といふ武士あり・・・
23 鍛冶屋の土佐といひて西洞院にありしもの祝ふこと人に過ぎたり・・・
巻一奥書
巻之二
巻之二目録
名付け親方
1 いろはをも知らぬこざかしき俗あり・・・
2 豊前の国の太守長岡越中守殿京より壁塗りの上手を一人つれて下向あり・・・
3 人ありて沙門の家に入り法体して後戒名を付かんことを乞ふ・・・
4 雄長老の小者に鳥を刺す上手あり・・・
5 河内の国山のねきといふ所にさのみ事も欠かで世を送る百姓ありしが・・・
6 かたのごとく人のもてはやす侍ありしがいろはよりほかは・・・
7 心浮きたる侍の被官に五十に余る者あり・・・
8 細川右馬丞殿へ松月の参られたれば・・・
9 東西わきまへざる男、年も六十に近付きければ・・・
10 佐渡に本覚坊といふ山伏あり治部卿とて弟子を持ちしが・・・
11 いかにも文盲なる者のさすが時々寺に出入りするあり・・・
12 禅門になりたる者に向ひ名は道見といふべし・・・
13 ちとおどけたる禅門法名を問ふに・・・
14 年八旬に余り初めて男子をまうけ悦び限りなし・・・
15 才智の足らざるをばかへりみず高慢したる体の者和尚の席に詣でて・・・
16 また東堂に向ひそれがし若年より心にかけ碁将棋連歌弓法の道を心得て・・・
17 名字の讃嘆する時ある者の言ふ・・・
18 傍より申しけるはお公家衆は鳥獣の名をこそ付かせ給へ・・・
19 小姓の名をかけがねと付けて呼ぶ人あり・・・
20 相撲取あり雄長老のもとに出でて・・・
貴人の行跡
1 信長公に対し公方御謀反の時節・・・
2 護明僧正の母上幼少にて別れつひにあはぬを恨みの歌となん・・・
3 紹巴の方へ烏丸殿そのほか公家達の御入りありて・・・
4 濃州のたいねんといふ人徹書記年頭の祝儀に参られ・・・
5 太閤の御時二徳といふ者別して御気に入りたり・・・
6 大名の世にすぐれて物見なる大鬚を持ち給へるあり・・・
7 河内の国に交野といふ所あり・・・
8 形ことに痩せ黒みてわたらせ給ふお大名ありしが・・・
9 少年に学びざれば老後に知らずと言へり・・・
10 大相国の御前に二徳かしこまりぬ・・・
11 雲はみなはらひはてたる秋風を松に残して月を見るかな・・・
12 大名のもとへ客あり振舞ひに湯漬け出でたり・・・
躻(うつけ)
1 腑の抜けたる仁に海老をふるまひけるが・・・
2 美濃国立政寺の老僧に天瑞といふありき・・・
3 座頭の出居に宿を借りて寝ねたるをうち忘れ・・・
4 夜更け三更の終り奈良の都に火事出来す・・・
5 ある人風呂に入りてゐけるがにはかに顔の色変り・・・
6 堺の正法寺に恵雲とてけしからず犬に恐るる坊主あり・・・
7 藤五郎とてこざかしき者と専十郎とてうつけとともに・・・
8 下手なる長談議の席に齢五十に余る女房帷をかづき・・・
9 利根をよそにあづけたる亭主なまじひに小便当にて・・・
10 ある人銭を埋む時かまへて人の目には蛇に見えて・・・
11 金春禅風毎朝の看経怠慢なし・・・
12 ある長老の高座にて諷誦を読み終り・・・
13 下湯(おりゆ)に入りたる者言ふ・・・
14 ちと利口になき二十余りの惣領あり・・・
15 男子一人あり親の弔ひとて神子を請じ口寄する時に・・・
16 うつけらしき友達どもの寄り合ひおのれおのれが妻の尊を語る中に・・・
17 脇に出る大夫楽屋にて目に仏を失ひ物をたづねまはる風情あり・・・
18 振舞ひの汁に大きに見事なる笋出でたり・・・
19 蒲生飛騨殿所労すでに一大事なるとて・・・
20 京の町にて人あまた二階に遊びゐけるが目薬は目薬はといふ声を聞き・・・
21 亀はいかほど生くるものぞ万年生くるといふ・・・
22 道行ぶりに向うより来る者を見れば百八の数珠を首にかけ・・・
23 三好中納言殿へ昔甲を持ちて来たり見せ参らせたることあり・・・
24 盗人にあひてこれはどちの方より如何体の者の仕業ぞ・・・
25 さる賢き人数寄に行き路地へ入りたれば植ゑたる竹の先を包みたるが・・・
26 思ふ同士四五人いざないて清水へ詣でしが・・・
27 十人ばかり連れ立ちて北野へ夜ぶかに参詣しけり・・・
28 ちとたくらだのありしが人に向ひてわれは日本一のことをたくみだいたはと・・・
29 振舞ひの時亭主出でて何も不調法に候ふゆゑ・・・
30 さしからぬ者いかがしたりけんとりはづして井にはまりしことあり・・・
31 石州に板持といふ侍あり・・・
32 件の板持馬に乗り坂をのぼりける時・・・
33 同じ板持方へ客あり・・・
34 都一条あたりにて中間夜に入り寝入り居ける間に・・・
35 ある者饂飩の出でたる席にかたのごとく賜はりあげくに言ふ・・・
36 京にて盗人にあうたと興覚め顔し隣家の者集まり居たるところへ・・・
37 七月風流を他郷にかくる・・・
38 岩千代とて十四五にてうつけたる子あり・・・
吝太郎(しはたらう)
1 人ありて無心の申しごとなれど晴れがましきところに出で候ふ条・・・
2 和泉一国徳政のゆきて貧なる者はくつろぎたるといふを・・・
3 すぐれてしはき者のたまたま得たる客あり・・・
4 家主朝食をくふところへ常に寄り合ふ人来たりぬ・・・
5 三河の国に宗恵といふて有徳なる者あり・・・
6 ある寺の住持弟子に言ひ付けぬるやう・・・
7 わが門に立ち出でて遊びゐければふと知音の者の通るに見参したり・・・
8 客来たるに亭出でて飯はあれども麦飯じやほどに嫌であらうずと言ふ・・・
9 美濃の国にてある侍の内に丹波助太郎とて大欲心のいたづら者あり・・・
10 伊勢の桑名に喜蔵庵とていかにもしはい坊主のありし・・・
11 ある芸者の親子つれだちて貴人の前に侍りしが・・・
12 若衆あり念者に向ひて・・・
13 雨降る日のさびしさによしある方に尋ね行き上戸の二人寄り合ひ・・・
14 ことさら小さき土工李に古酒を送るとて・・・
15 念者が若衆に向ひて真実そなたをいとほしいと言ひければ・・・
16 紀州根来に小谷の西原といふ人かたのごとく有徳なりしが・・・
17 貧僧ありて弟子ままにすれば案の外多く酒を取り寄する・・・
18 濃州の岐阜に不動院とて真言宗の老僧あり・・・
19 われらは雑炊嫌ひなりと常に言ふ者あり・・・
20 有銭の家主あり・・・
賢だて
1 ぬからぬ顔したる男大名のもとへ参る・・・
2 古道三洛中歩行の折節ある棚のかたはらに青磁の香炉おもはしきあり・・・
3 和泉国に塩穴といふ侍あり・・・
4 出家のさまかへて武士になりたるが馬に乗り遊行する道に・・・
5 日本第一の智者と額を打ちて諸国行脚の僧あり・・・
6 ある僧小者を一人つれて銭湯に行き・・・
7 人の親の大事にわづらふ時針立の上手とて呼び来たる・・・
8 目医者ありその身の目は腐りてゐながら目薬は天下一也と自慢し・・・
9 老父ありたださへかすむ目もとの暮れ方に二階より降りんとする・・・
10 花見の興の帰るさもたそがれ時になりぬ・・・
11 力はさのみなうて手のきいたるを頼みにし相撲を好く男あり・・・
12 秦の始皇の代に天竺より僧渡る・・・
13 秀次関白殿より遊行上人へつかはし給ふ・・・
14 二条院和歌好ませおはしましける時・・・
15 革草履を履きて歩く者あやまちに足を蹴破りことのほか血の流るるを見て・・・
巻二奥書
巻之三
巻之三目録
文字知り顔
1 ある人小姓をかすなぎかすなぎと呼びて使はるる・・・
2 元三に利口なる人礼に来たれり・・・
3 振舞ひなかばに亭主塩打大豆塩打大豆と呼びければ・・・
4 笛のえはちぢみえか末のゑかいづれが良いと言ふに・・・
5 備後国に久代とて形のごとくの大名あり・・・
6 医者に向かつて白朮とは何を申すや・・・
7 作意ある人の犬あり名を二十四と付けたり・・・
8 革細工の方へ侍のもとよりとて太刀に文を添へ持ち来たる・・・
9 宗祇東国修行の道に二間四面のきれいなる堂あり・・・
10 境の中浜に道海とて富める者あり・・・
11 坊主と弟子と言ひ談じてつねづね愚人をあひしらひし・・・
12 ある武将の裏方に瘧をわづらへることあり・・・
13 美濃国うるまの大安寺に般若坊とて狂歌に名を得たるありし・・・
14 武士たる人の殿殿と言ふが殿の字の声はでんと教ゆる・・・
15 金子と書くべきところに合子と書きたり・・・
16 あへものの菜をば何時も本皿には盛らず・・・
17 脈とては浮中沈をも弁ぜず七表八裏九道二十四の名をさへ知らぬほどの医者あり・・・
18 地蔵講の式目といふ外題を見・・・
19 武士たる人ある神主に向ひそちは神道を心得たるや・・・
不文字
1 朝倉の山椒を一袋持たせ侍のもとへ音信につかはしけり・・・
2 脾胃の虚したる人にやありけん平胃散を調合し服せんことを望み・・・
3 元日に羹を祝ふところへ数ならぬ者礼に来たる・・・
4 同じやうなる者三人ともなひて貴人のもとに行きまづ上座の者・・・
5 人みな歳末の礼とて持参し行く・・・
6 三人行き合ひて一人が言ふ・・・
7 手跡の讃嘆ある席にて口あれば言ふことと・・・
8 ある侍中務になられたといふ時百姓ども祝儀とて・・・
9 始めて奉公に出る侍のありしが奏者する人に御名字はと問はれ・・・
10 中間どもの集まりて人の名名字を沙汰しけるが・・・
11 奉公する人の問ふやうはそれがしが頼みたる殿を下野といふ者もあり・・・
12 逸興参会の物語にこの家中のおとなは伯耆下野とて両人あり・・・
13 物は書かねど利口な者にてんびんとは何ぞ書くぞや・・・
14 服部といふ侍に文字を問ふ・・・
15 いろはをも読まぬ者ありて常に人の酒飯と言ふは何事ぞや・・・
16 物書く者を頼み文一つあつらへ宛てどころを問へば・・・
17 小豆餅のあたたかなるを夜咄のもてなしに出だす・・・
18 目医師に出でんとする人銘を書くべきあてもなければ・・・
19 山家に信国の脇差を持ちたる者銘を知らず浄土宗の僧に読ませたれば・・・
20 侍めきたる者の主に向ひおかべの汁おかべの菜と言ふを・・・
21 月迫になり殿の台所ととのひがたし・・・
22 昨日は一日妙円寺といふ寺に遊びつるはと語る・・・
23 風呂をばいづくにあるも銭湯といふとばかり心得て過ごしけるにや・・・
24 あなたこなた年頭の礼にありきけるさきざきにて・・・(参考)
25 御札の如くと文をよむ・・・
26 人客を得て菓子に蜜柑を持ち出でこれは庭前のにて候ふと言ふ・・・
27 八景のうちに遠寺の晩鐘とは・・・
28 この四十年ばかり以前江州永原に祈祷連歌ありし・・・
29 人ありて作善を勤むるごとに・・・
30 ちと仮名をも読む人の言ひけるはこのほど徒然草を再々見て遊ぶが・・・
31 乗り物を乗物といふもまた魚を魚物といふも・・・
32 禅宗の檀那と一向宗の檀那と寄り合ひ語りゐ・・・
33 人集まりゐ語るついで膏梁の美食とて・・・
34 京都四条の河原にて将棋の馬を拾ひたる者あり・・・
35 南無の二字ばかりをいかがしてかは見知りたるその余りの文字は闇なる男・・・
36 永玄といふ禅門あり・・・
37 了有と名を付けて了はと人の問はばみみかき了と答へよ・・・
38 一円不文字なる侍小知行の代官になりてわめき歩く・・・
39 ある者の息子百人一首を本にむかひたうたうと読みければ・・・
40 古田織部の数寄に出ださるるほどの物をば・・・
41 東寺の並びに遍照心院といふあり・・・
42 京よりいたらぬ者とも連れ立ち石山寺に参り・・・
43 そちの親の煩ひは何にてありつるぞと問はれたれば・・・
44 こびたる顔の亭主言ふ餅を焼いて食ひたいと・・・
45 夏の振舞に燗をしたる酒と冷酒と出だし・・・
46 ある男二三人連れ立ち誓願寺に参りけるが下陣にある額の六字を見・・・
47 一宇の御堂造立すでに成就し棟札を書かんと・・・
文の品々
1 根来にて岩室の梅松とかや聞こえし若衆に・・・
2 青蓮院殿へ出入りする筆匠あり・・・
3 侍たる人右筆を呼びて此ほどは久不懸御目満足仕候と書けと・・・
4 さるところにて釈迦の文を見たはと語る・・・
5 かせ侍のもとより知音の方へ文あり・・・
6 祖父と祖母と何事をいさかひけんさうなく祖母を追ひ出だしけり・・・
7 とかく当世は文章の短かきがはやると言ふを聞きて・・・
8 また商人遠島より古郷へ便りあるといふ時妻のもとへ文並びに・・・
9 さもとらしき女房の下衆など連れたるが清水寺に詣で来て・・・
10 文盲なる人弓懸を借りにやるとて・・・
自堕落
1 洛陽に寿桂といふ坊主落堕し姪女なりける比丘尼を妻にもちて居けり・・・
2 世度卑なる出家あり・・・
3 常に人みな干鮭は身を温めてよき薬など言ふを聞きて・・・
4 芋掘り僧のありつるが秋も最中の月澄みに・・・
5 板がへしをせんと屋根葺き二三人雇ひ出だしすでに板をまくりけるが・・・
6 ひそかにつかはす使の小者久しく病に臥しけり・・・
7 窮貧の沙門にて年もまた至極せるが・・・
8 鱛を反古に包み焼き飯にそへて食せんとする時・・・
9 あまりに斎を食ひ過ごして腹便々と帰るさに・・・
10 僧俗ともにまじはり語りなぐさむ座敷にてある坊主急に咳をしけるが・・・
11 都の寺に檀那朝とく参り本尊を拝し・・・
12 大名の家に奉公の望みをかけたるがやうやくととのひぬれば・・・
13 学跡をものぞきけるほどの沙門鰻を板折敷の裏に置き・・・
14 ある一人坊主烏賊を黒あへにしてたまはるところへ・・・
15 一日の精進を千日とも思ひこらへかぬる人はままあり・・・
16 信心深き人山寺に詣である僧坊に宿を借り・・・
17 天に目なしと思ひぬた膾を食ひぬるところへ檀那来たり見付けたれば・・・
18 ある僧喉痺にてはなく喉をいためるあり・・・
19 ある檀那寺に参りしばらく雑談し立ちざまに・・・
20 坊主いつも鮎の名を剃刀と付けて箱に入れ求むるを・・・
21 昔より八瀬の寺は禁酒なり・・・
22 僧俗寄り合ひての物語に今ほどはことのほか鮒が安きよし坊主の・・・
23 ある出家深く隠して鱠を食ひけるところへふと檀那来たれり・・・
清僧
1 人跡絶えたる山中に一宇の堂あり・・・
2 禅に一路とて得法の僧ありし・・・
3 百三十年あまりのあとかとよ筑前国宰府の天神の飛梅天火に焼けて・・・
4 さしも尊き老僧のもとへ松茸の盛りなるを人の贈りたり・・・
5 栂尾の明恵上人は春日大明神直に御言葉をかはし給ひしが・・・
6 大和国に龍門の聖といふあり・・・
7 昔唐土に宝誌和尚といふあり・・・
8 天竺に一寺あり住僧多し達磨和尚僧どもの行ひを見給ふに念仏するあり・・・
巻三奥書
巻之四
巻之四目録
聞こえた批判
1 貴賤袖をつらねわれも人も数珠つまぐる体を見・・・
2 西三条逍遥院殿御養生に有馬へ湯治ありし・・・
3 市の立つ町のかしらに小宮を建てて夷の作りたるあり・・・
4 比叡山にて北谷の児は雪に過ぎたるものやあらむと愛せられし・・・
5 従一位の右大臣征夷将軍源家康公天下を治め給ふ・・・
6 大仏の前にて若き侍の小者二人連れたるが茶屋に寄り・・・
7 山科の百姓薪をこり負ひたるまま山よりすぐに京に出でて売る・・・
8 慶長七年七月七日に背中に笈摺などいふ物をかけつる人足・・・
9 下京にちと有徳なる者男子を一人持ちたり・・・
10 京にて猫を失なへる者あり・・・
11 京矢田の町に夫婦の人ありしが夫先に立ち妻歎きに明け暮れ・・・
12 綾小路にて板返しする日家主の女房屋根に上がりしが・・・
13 板倉伊賀守殿齢七旬にあまれば・・・
14 刀の売買ありし・・・
15 河原院は融の左大臣の家なり・・・
16 京にて家を買うたる者その家に付きたる廊下あり・・・
17 春のころ野遊びに人あまたさそひ出で・・・
18 平安城にて質に具足を置き受けんとする時に見れば鼠が糸を食ひたり・・・
19 九重の内油の小路通りに何事やらん雑人集まりかまびすしくものあらがふ体あり・・・
20 親子諍ひ子が僻事といふ題出でたれば・・・
21 北野の神前にて祈祷連歌あり・・・
22 陰極まつて陽生ず・・・
23 人ありて所司代に出で申し上げけるはわれらの家へ常に参る乞食の候ふ・・・
24 そちは生得貧乏なる体を見及びしが・・・
25 葛かづら先へ這はずとあとへ這へ・・・
26 そのかみ大樹より仰せ付けられ彦坂九郎兵衛駿河の町奉行なりし時・・・
27 京にて銀子三十貫目持ちたる者命終の時妻に向かひ・・・
いやな批判
1 母の娘に向かひそちははや年二十になれど・・・
2 道行きぶりに蛇の竹に刺してあるを見・・・
3 一生読み書きののぞみもなくただ富貴して世を送る人あり・・・
4 山深く住む者一人連れだち国中に出でけり・・・
5 何者ののぼりくだりに落としたるやらん信濃国の山道に烏帽子あり・・・
6 柘榴を見て一人はざくろと言ふ一人はじやくろと言ふ・・・
7 山中に祝言のことあり蛸を買ひにつかはす・・・
8 人ありて昼は振舞に行くと言ふ・・・
9 はじめは富みて世を過ぐしける人にはかに落ちぶれたれば・・・
10 山家に晴れがましき客を請ずるとて白鳥を求めにつかはす・・・
11 人の通ひもまれなる山中にて座頭の琵琶を負ひ・・・
12 鳶は木にとまりゐて芦辺に住む鷺に向かひ・・・
13 道の傍らに埴生の小屋あり・・・
14 風呂に入りて聞きゐたれば一人吟ずるやう山高きがゆゑにたつとからずと・・・
15 ある者山道を行き不思議に白鳥を拾うたり・・・
そでない合点
1 何のとりえもなき者あり・・・
2 無上の果位にのぼらせ給ふ釈迦だにも・・・
3 山中にて如月中旬に農夫二人連れ立ち出で・・・
4 折々柳原の道三へ出入りの人あり・・・
5 児に髪を結ひて参らする侍従ある朝われをば何ほどふびんに思し召すやと問ふ・・・
6 始めて奉公をする人あり主人近付け問ふ何ぞ芸があるかや・・・
7 奉公をつかまつらんと言ふ・・・
8 能を見物せんとて芝居銭十文つかはし・・・
9 愚かなる女房の夫に向ひさらさらなきことを言ひ続け妬むことあり・・・
10 神々の祭礼といふも仏閣の祈祷といふも・・・
11 月次の連歌の会にかま鷺は山の途中に飛びおりて・・・
12 一句出だしたるに執筆舟が近い近いと言ひけるを・・・
13 手負ひには有馬の湯ほど薬はないと人みな言ふを聞きたる庖丁人あり・・・
14 腰を引く人を見てそなたの足はつれに片足短いかと問うてあれば・・・
15 博打打が夜半過ぎに宿に帰り女房を起こし・・・
16 日のある間を昼といひ日の入りて後を夜といふはいかさま子細あらんや・・・
17 盗人物を取りすまして人なき所に集まり・・・
18 若輩なる者ども三人連れだち長谷寺へ参りしに・・・
19 木鎌を持ちて山へこそ行け・・・
20 なにへんともなき者ども三人連れだち清水へ参り・・・
21 中風をわづらふ者あり医者のもとに行き脈を見せければ・・・
22 俊蔵主といふ出家の子を持ちたりしが・・・
23 何とて芍薬をば歌に詠みたるなきぞと不審する者あれば・・・
24 猿ひきめが来たはと子供の言ふを聞き・・・
25 主は馬上にあり中間鑓を持ち立ちながら小便をする・・・
26 児の遊びに草合あり・・・
27 老いても文を好む人あり・・・
28 上手の碁が今朝めし過ぎより八つさがりになるがいまだ二番果てぬ・・・
29 法華宗の寺に使はるる小者飯米を買うて来たり・・・
30 小文字ある出家にはかに連歌を稽古せむと思ひ立ち・・・
31 宗長杵の神へ参詣の刻み・・・
32 酢を多く吸へば皺がよる・・・
33 神農といふは百草を舐め百度死して百度活くるとやらん・・・
34 田舎のかせ侍長陣の慰みに俳諧をして遊ばんと言ひつつ・・・
35 山家の者とて老いたる姥の杖にすがり京に出でたるを・・・
36 夜もいまだ明けやらぬに中間たる者戸を開け・・・
37 ある僧若衆の方へ・・・
38 ゆふべの説経に姥の泣かれつるは何のあはれをわきまへてぞ・・・
39 人みな連歌をし習ふとて一順の月次のなどとてはやらかす・・・
40 十月五日は達磨忌とて例年禅家に法事あり・・・
41 山より里に出づる者二人連れ立ちある川の橋を渡るとて・・・
42 昨日日吉太夫隅田川をしてみなに泣かせたはと語るを聞き・・・
43 連歌する人の小者正月の末に寄り合ひ思ふこと懺悔物語の後・・・
44 借銭を乞ひにいくたび人をつかはせどもなすことなし・・・
45 馬を買うてひき来たれば見る者雑役と言ふ・・・
46 唐船の謡に身もがな二つとあるを一人はいもがな二つと覚ゆる・・・
47 酒の出たるを一口飲みてさてさてよき御すいで候ふと讃むる・・・
唯あり
1 伊勢の桑名に本願寺とてあり・・・
2 下総の国とかや聞く墨染の衣着て掛絡をかけたる僧行脚す・・・
3 長岡越中殿伏見より雄長老のもとへ旗棹もらひに使者のありし時・・・
4 途中に一人の姥やすらひものあはれさうに泣きゐたり・・・
5 富士の人穴の勧進と言うて門々を歩く者あり・・・
6 長老たち四五人休座の物語ほど過ぎ・・・
7 学も少なう療治も秀でたる覚えなき医者の田舎より堺の津に来たり・・・
8 宗祇東修行の道にて人謎をかくる・・・
9 夢庵堺の津におはしけるに方々より年の内の立春また元三の発句など・・・
10 本願寺の門跡ある冬堺の津に下向ありし時・・・
11 親である人お聞きあれ銭をぜぬとは片言なり・・・
12 母におくれたる者肖柏のもとに来たれり・・・
13 荘周が夢に蝶になりたるとやせん蝶が夢に荘周になりたるとやせん・・・
14 親鸞聖人の和讃にすなはち往生すと書き給へる詞あり・・・
15 はれがましく並みゐたる座敷にてひたもの眠る者あり。・・・
16 一人はともかくも世を過ぐしかねず一人は手前衰へたると・・・
17 普光院殿御影に・・・
18 一休住吉の松斎庵に居住の時・・・
19 客を得て食の用意をしけるに亭主走り参り・・・
20 大名の前にて座頭のひたもの眠るを見給ひ・・・
21 ある庖丁人の言ひけるは・・・
22 後京極摂政殿にはなれ給ひて愁傷のあまり定家卿・・・
23 宮仕へする侍あり人まねして清水へ千度詣を二度したり・・・
24 山科の道づらに四の宮川原といふ所袖くらべとて・・・
25 ある者恋慕したる若衆の東国に下るを・・・
26 石山寺にて連歌興行のことありし時・・・
27 夢窓国師住吉参詣の時・・・
28 京の町を大根売りの大こかう大こかうと言うて通りける朝・・・
巻四奥書
巻之五
巻之五目録
婲心(きやしやごころ)
1 夢庵は常に牛に乗りて遊行ありし・・・
2 もとは都に住みて、子ども五人持ちしが住みわびて筑紫に下りし・・・
3 昔語りに女院へある時大きなる杓子をあげけることありし・・・
4 細川幽斎公の姉御前に宮川殿とかやいうて・・・
5 さきの宮川殿子息雄長老頭痛の治ると聞き十津川へ湯治し給ひし時・・・
6 夫の心にはかに変はり妻に暇をやると言ふ・・・
7 大名の扶持を受くる座頭あり・・・
8 美濃の国に石谷といふ侍あり・・・
9 普光院御所へ重宝の剣を進上す・・・
10 備中の国高松の城主を清水長左衛門宗治といひし・・・
11 伊勢より熊野へ参詣の武士あり・・・
12 和泉の堺に宗椿とて手書きのありし・・・
13 町屋の棚に面をかけて置きたり・・・
14 芸州に大場といふ侍あり・・・
15 住吉の花の盛りに少人を誘引したる方へ・・・
16 またいつの春やらん住吉にて花のもとに顔を包みまはしてゐたる人のもとへ・・・
17 和泉の堺に森川といふ大鼓打ちあり・・・
18 久しくあひなれし夫婦の中に思ひよらずいさかふことありて・・・
19 牡丹花の児にて机にかかりいかにもしとやかに手習ひし給ふを見付け・・・
20 丹後の国に鉈の庄とてありかしこの百姓同じ百姓に米を貸しぬ・・・
21 江州坂本にある母のもとへ年の暮れの文に叡山より児の書きてやりけるは・・・
22 博奕の上手二人一度に死して炎王宮に至る・・・
23 教月坊例の狂歌を持たせ定家のもとへ・・・
24 麁屋の夕顔といふ題にて夢庵・・・
25 新続古今を撰ぜらるる時歌人の数に入りなんことを望み・・・
26 周防の太守大内殿の北の御方在京のほどあるうちに文二つのぼせり・・・
27 鎌倉の中納言為相は定家の孫なりし。・・・
28 後柏原院崩御なされし時三条の桶屋が娘・・・
29 木こりの斧を山守に取られ心憂く思ひつつ杖つきてゐける・・・
30 隠し題をいみじく興ぜさせ給ひける御門の篳篥を詠ませられけるに・・・
31 越前守の〓に高忠といひける侍の夜昼まめなるが・・・
32 朝夕に木をこりて親を養ふ孝養の心天に知れぬ・・・
33 ことたらず世をわびて住む人の妻あり天然と和歌に心そみ・・・
34 建仁寺の開山千光祖師在唐の時老母の上を悲しみて詠み給ひし・・・
35 頼朝公より慈鎮和尚へ何にても用のことあらば文を委細に書き越し給へと・・・
36 深草に薄墨の桜とも墨染の桜ともいふは・・・
37 大内殿在京の時京より御台・・・
38 左衛門尉蔵人頼実はいみじきすき者なり・・・
39 光源院殿京都四条道場に陣を取りて御ましありし時・・・
40 三条三光院殿十六歳の御時禁中にて懐旧といふ題出でたりつるに・・・
41 宗長法師ある方に泊まり暁急ぎ帰るとて下帯を忘れ置かれしを・・・
42 美濃の岐阜に宗湖とて連歌の上手家貧しかりし・・・
上戸
1 上戸下戸論争
1-a
1-b
1-c
1-d
1-e
1-f
1-g
1-h
1-i
1-j
1-k
1-l
1-m
1-n
1-o
1-p
1-q
1-r
1-s
2 尊氏将軍五世の孫義政公の御時洛中洛外酒を禁じ給ふことあり・・・
3 伊勢参りの坂むかひに出でたる者内に帰り胸をなで額をとらへ・・・
4 乱舞時過ぐる酒盛りに正体なく呑み酔ひたる者・・・
5 主君なる人の酒に強きあり・・・
6 年の内の立春にめでたしとて奉公の衆おのおの出仕をとげけり・・・
7 花のもとに帰らんことを忘るるも霞の内の酒ゆゑや・・・
8 振舞ひの席にて今日の亭主は生得下戸なり・・・
9 上戸たる人の上には四返目の大事といふあり・・・
10 酒に酔ひて帰り寝ねたる体敷居に肩を置き頭を下に下げたり・・・
11 朝食のうへに初献は笠にてとほし二返には中の椀三返には汁の椀にて・・・
12 きとしたる人のもとへ参るたび酒を給はるに・・
13 東堂へ参れば必ず盃出でける・・・
14 薬さへ過ぐれば毒となるいはれありまして酒の性は熱たり・・・
15 酒半ばに亭主出で御返しをば右手より候はんと言ふ・・・
16 小機嫌のよき折節懺悔物語をしけるが・・・
17 酒を飲むも時によりてたたるとたたらぬとあるといふはまことか・・・
18 何にか思ひ立ちけん一期酒飲むまいと神文し・・・
19 神無月の半ば木の葉の散るも時雨めきて空寒げなる時しも・・・
20 山中山城方へ紹巴の訪れられし時・・・
21 寺僧二十人ばかりある寺を一堂請用の時住持触れをまはし・・・
22 酒といへば見るもいやと思ふ下戸ゐたり・・・
23 飯後の酒三返とほりて亭主出で今度は中で受けさせられよと・・・
24 大名の気に入りあなたこなたと振舞ひにはづれず供し歩く者あり・・・
25 師走の十日ごろ一条の辻に大酒に酔ひ余念もなく寝ねてゐる者あり・・・
人はそだち
1 東の奥より都に上りたる人あり・・・
2 客を得たりとりあへず振舞ひに源氏のお汁をせよとこそ言ひ付けけれ・・・
3 山中に殿あり国なかにてさもとらしき武家より嫁を呼ぶに・・・
4 人里遠き寺あり手習ふとて少人集まりゐる・・・
5 小者を語らひて若衆に持ち懐きて寝ねたるに・・・
6 山中の者里に出でて振舞ひに素麺あり・・・
7 とろろ汁の出でたるを座敷に古人ありて今日のことづて汁は・・・
8 摂津国の内小妻といふ所は海辺にて漁人多く住めり・・・
9 和泉の堺車の町に商人禅門になりたるありしが・・・
10 山の一院に児三人あり・・・
11 京にてある武士と見えたるが人らしく馬に乗り通るに・・・
12 手習ふ小姓四五人あり・・・
13 商人の子を寺に置きたれば毎朝とく机にかかりいで店出さうやれと言ふ・・・
14 少人集まりゐてい文字鎖を書きけるに・・・
15 住吉と聞く松原にときは文月七夕や・・・
16 酌をする者酒をほかとこぼしたれば・・・
17 大和の傍らに十市殿とて大名ありしが世に落ちぶれ・・・
18 堂前に古りたる松一本あり老僧少人にたはぶれ・・・
19 商人の持ちたる子を見てこれの息子は今年いくつぞや・・・
20 たそがれ時に何の音とも知らずはたはたと鳴る・・・
21 山深く住む貧乏人国なかへ出でけるが折ふし宿に客あり・・・
22 塗師屋の息子手を書きならひて執筆をするあり・・・
23 質屋の娘嫁入し夫婦の仲もよかりしが・・・
24 聟入りして喜びの盃数めぐりたるに祖父出で合ひ初対面の時・・・
25 手習ふ子供あまた候ふに坊主昼寝の床より雨は降るか降らぬかと問ふ時・・・
26 山家に候ふ聟が市に出で用をととのへ日の暮れてより舅のもとに立ち寄る・・・
27 屋根葺いかがしたりけん踏み外して落ちたり・・・
28 その身の分によりては恥がはしき人のある時亭主七つ八つなる・・・
29 堺にて故薬師院といふ医者あり客に対し可盃を出だせり・・・
30 ある人研屋に行きて遊びゐたれば亭主彦二郎彦二郎と呼ぶ・・・
31 飯後の湯出でたるに風味ことに香ばしく大きにすぐるるなど讃めけるを・・・
32 腰元に使はるる幼きがあやまちに硯箱を踏み割りたり・・・
33 しかしか人中へ出でたることもなき十四五なる小姓給仕をするに・・・
34 犬を好き飼ふ者あり名を呼んで鳴子の露と言ふ・・・
35 山に児三人あり師の坊難題を出だし歌詠ませける・・・
36 下京に孝行風呂とてありし・・・
37 大名のもとに能あり人あまた見物に行く・・・
38 年のころ八つばかりなる小者冬日の朝・・・
39 野人春の暖かなるに思ひ立ち山家に行く・・・
40 関東より会下僧の上り京に住まれしがある町人と会合す・・・
巻五奥書
巻之六
巻之六目録
児の噂
1 叡山西塔に児たち寄り合ひて・・・
2 振舞ひの菜に茗荷の刺身ありしを・・・
3 年の暮れになれば家内上下の定器どもを侍従あつらへんと言ふを聞いて・・・
4 尾州に笠寺の観音とて人あまねく尊めり・・・
5 三伏の暑き日に坊主他行のことあり・・・
6 大児と小児と額を寄せ合はせをかしき物語して・・・
7 八月十五夜の月に向かひ坊主あまた集まり児もまじはりながめゐけるに・・・
8 今朝とくから北谷へ大児の呼ばれておはしたるが・・・
9 叡山の児も三井寺の児も里に下りゐられけるがおりおり出で会ひ他事なかりし・・・
10 児里へ下る宵に侍従を頼むは紙に包みたる物を渡しこれはわが秘蔵なりと・・・
11 坊主餅を一つ持ちて出で二つに割り児三人の中にて秀句を言うて食はれよと・・・
12 振舞ひのありし時あふをまれとや児大きに食を過ぐし・・・
13 児を請じて歌うつ舞うつすれども隣寮の坊主をかつて呼ばず・・・
14 貧々たる坊主の眠蔵より餅の半分あるを持ちて児にさし出す・・・
15 ふと人の来たりて児に向かひ法印はいづくにわたり候ふぞと尋ぬれば・・・
16 ある時宗長笠寺に参られし・・・
17 比叡山北谷持法坊に児あまたあり冬の夜豆腐一二丁を求め田楽にする・・・
18 児寄り合ひの懺悔に大児は虱が鳴くものならば・・・
19 帥が児によりより口説きければ・・・
20 弘法大師入唐の時僧来て問ふ如何なるか是生死一大事・・・
21 報ふてふこと軽からじもの・・・
22 山門北谷に児あり悪瘡のいたはりに根本中堂へ参籠す・・・
23 人ありて問ふ児の年はいくつになり給ふぞ・・・
24 七旬に余る老僧児のあまたある中にて同宿どもにこの十日も二十日も・・・
25 大児を誰人の賞翫しけるよやけしからぬ活計のありつると見え・・・
26 大児の小児に向かひて今日の腹はいかやうに候ふやと問はれける・・・
27 児たまさかの里くだり・・・
28 大児大空にはばかるほどの餅もがな・・・
29 児の泊りに来て夜はやうやう更けゆけど菓子をさへ出すよしもなければ・・・
30 山寺に児や法師まじはりいろいろの物語するついで・・・
31 三位が物相と児の物相と同じ飯台にすゑ並べて置きたれば・・・
32 児はいくつぞと人の問うてあれば・・・
33 斎の座敷にて三位児の膳にあるより欲しくなくと無理に飯をたくさんにお参れ・・・
34 児と寝ねたるに法師口を吸ふとていかがありけん歯を一つ吸ひ抜きたり・・・
35 大児と小児との前にて小児の年はいくつぞや・・・
36 児に隠して坊主餅を焼き二つに分け両の手に持ち食せんとするところへ・・・
37 比叡の山へ侍の子と鍋屋の子と登山し一つ寺に児となりてゐたり・・・
38 三井の寺にて鶴千代といふ児三位に向き・・・
39 ある座敷にて児のとろろ汁の再進をひたもの受けらるる時・・・
40 老僧小僧児若衆言ひ合はせて随意講のまはし始まれり・・・
41 大児の言へるやうあの三上山が飯ならば何とあらうのとありしに・・・
42 ある法師のもとより二人おはして遊ばるる児のもとへ座禅大豆を・・・
43 延暦寺にて下法師山へ行く時児に言ふ昼の飯をば棚に置きたり・・・
44 大児と小児と二人ゐて菓子に出でたる串柿を賞翫あるに・・・
45 ある時児茗荷のあへ物をひたもの食せらるる・・・
46 山の大坊に猪の子の餅をつく・・・
47 児を請じて夜衣に新しき紙の衾を出だし着せぬるまま児の詠める・・・
48 貧々と世を経る僧の思ひに堪へかね児を請じ大唐米の飯を出だせり・・・
49 まことわびしき親を持ちたる児のありつるを小師の坊あはれみて・・・
50 豆腐二三丁を田楽にせしが人多なり・・・
51 児を呼びて伽の人など集め振舞ひを出だし・・・
52 児の膳に香の物あるを脇にゐたる僧取りて食ふ・・・
若道知らず
1 久松といふ子を山寺に上せ置きたり・・・
2 紀州根来の岩室に・・・
3 幸菊といふ一人子を寺にのぼせ物習はせけるが・・・
4 若道にはうとうとしく歌道にはたどたどし文章には暗し・・・
5 子を置きたればそれに頼り親再々寺に行く・・・
6 若き僧一夜の宿を借りけるに十一・二歳なる少人同じ座敷に寝ねたるに・・・
7 治部卿が児の手を取りいろいろさまざまに言葉を尽せど・・・
恋のみち
1 妻夫いさかふことあり ・・・
2 僧の落堕してゐけるをよしみある人なつかしく見参のために尋ね寄る・・・
3 京の町を気力の毒買はう毒買はうと言うて歩く男の姿を見れば・・・
4 老母老父と成人の男子三人一処にあり・・・
5 亭主の心に女房はよく寝入りたるやと思ひ二階に候ふ下主のもとへ・・・
6 こなたの宮法師殿昨日花のもとの一節は何に比べんやうもなや・・・
7 時宗の寺に長阿弥といふ喝食あり・・・
8 茜の裏に縞の表の小袖着たる若衆を見て・・・
9 東にて都の若き商人とその宿なる中居の女房にあひ馴れ・・・
10 七十に近き姥あり似合ひたる者の方へ嫁入りする・・・
悋気
1 夫婦もろ白髪まで添ひたりし祖父先に立ち朝一片の雲とのぼる・・・
2 夜半のころ隣にいさかふ声しけり・・・
3 おかたの方より紅梅が使ひに参りたるがよし言ひ上げけるに何事ぞ・・・
4 武士たる人若衆と知音せられけるをことの外に嫉み妬み・・・
5 貧なる僧のうちほれて知音する若衆に大名の執心せられ・・・
6 老人のもとへ器の蓋に紙を押して・・・
詮ない秘密
1 田夫畠を打つ折節隣郷の百姓通りあはせこれは何を蒔くぞと言ふに・・・
2 二郎大夫といふ百姓夫婦ともに連れ河内の国今田の市に立つ・・・
3 市にて物を拾ふといふ題にて・・・
4 義経東国下向の時一夜の宿を借られけり・・・
5 僧俗呼び合はせ慇懃に斎をしてんげり・・・
6 はづかしき客あり振舞ひ半ばに酒を取りて来たれとありしかば・・・
7 わが身を謙り何はにつけ卑下する人ある時馬の庭乗りしけるに・・・
8 天に雲尽きて星まんまんとかかやく夜あたりの友を誘ひ・・・
推はちがうた
1 洛陽に一噌とて名を得たる笛吹きあり・・・
2 馬喰のもとにて馬を買ふ・・・
3 久我縄手を葦毛馬鹿毛河原毛の三疋に荷を負ほせて行くに・・・
4 一休伊勢の浅間にしばらく住山ありし・・・
5 いかにもきつき姑の死したる時嫁歎き涙を流すことかぎりなし・・・
6 宗祇有馬の湯に入りておはしけるに・・・
7 坊主同宿をつれて邏斎に出でし・・・
8 京より連歌の上手とて因州鳥取に下り宗匠をせられしが・・・
9 情深き児のもとへ折々通ふ僧ありし・・・
10 ものごと心がけある人山寺に行き一夜二夜泊まることあり・・・
11 和州にくらが峠といふかの山の頂に茶屋あり・・・
12 月次の会あり宗長のおはしけるその席の末座(ばつざ)に・・・
13 和泉の堺に森河といふ太鼓打ありまた餅をもつかせて商ふ・・・
14 京より北国へ嫁入りしたる女房のありつるが・・・
15 和泉の堺市の町に金城とて平家の下手あり・・・
16 おどけ者天王寺の石の鳥居を見われはこの鳥居を造作もなくきり落さん・・・
17 文の上書に平林とあり・・・
18 備前の国岡山にそこにべといふ魚あり・・・
19 知音の中に小姓の名を銭と付けて呼ぶ・・・
20 庄官たる者堤の祈祷とて発句をし百韻興行の後宗迶のもとにつかはし・・・
21 法談は過ぎてもつひに座を立たぬ男ありき・・・
22 若輩なる僧若衆とふたり寝ねたるに僧目覚めて・・・
23 継母に添へる子ありかの子をなつけて人の問ふ・・・
24 隣より五つ六つなる息子元日に来たり小歌を歌はうと言ふ・・・
25 瓦焼く者の近所に天下一の見目悪き娘を持ちたる人あり・・・
26 祖父が孫を愛して額をさすりなでふびんの者やふびんの者やと言ふ・・・
27 堺の津より作城といふ座頭讃岐に渡る・・・
28 世の中に推はみなちがうむねよくあへる心の歌にやあらん・・・
29 慈恵僧正は近江国の人なり・・・
30 旅の僧しばらく人のもとに逗留せしがふと出でて行かんと思ひ立つ・・・
31 関役所の難をのがれんにつくり山伏にしくはあらじと・・・
32 誓願寺の木食楚仙いまはの時にのぞみ・・・
33 東堂のもとへ客僧来たりお茶を所望申さむと言ふに東堂馬桶を出だし・・・
34 慈照院殿に召し使はるる明陶子淵用白干陽朱といふ三人あり・・・
35 ある所に禅門目の上に大なる癭をもてり・・・
36 真言と天台と二院並びてあり・・・
37 ある侍の指物にふへんものと書きたり・・・
うそつき
1 播州に風の神とて宮あり下り舟の船頭宿願して順風を乞ふ・・・
2 津の国兵庫の浦へ珍しき大魚を引き上げたるにその名を知りたる者なし・・・
3 人の物語を聞いてよく覚え洛中洛外知らぬ所もなきよしを言ふ者あり・・・
4 聟あり舅の方へ見舞ふとてある町を通りしが新しき雁を棚に出だし置きたり・・・
5 両の手にて輪をなし一尺ばかりのまはりなる真似をし・・・
6 明け暮れ嘘に過を言ひ回りたる者の方へ思ひよらず客あり・・・
7 俗も出家も貴きも賤しきも人はただあるべきやうに振舞ふべし・・・
8 七字の口伝・・・
9 京辺土のことならば幾度も見たが病で知らぬといふ所はなし・・・
10 神妙にもなき人集りゐける中に一人言ふ・・・
11 伊勢の国をのぞきたることもなうていくたびも参宮したるよし話す者あり・・・
12 信長公岐阜に御ましの時沼の藤六尾州よりただ今参りて候ふと申し上ぐる・・・
13 ちとうつけにてしかも富める人あり常にともすれは腹鳴ることけしからず・・・
14 山林に猿ども戯れゐたり・・・
巻六奥書
巻之七
巻之七目録
思の色を外にいふ
1 一村の庄屋たる者余の郷に聟あり・・・
2 惣領の二十に余れどつひに嫁をむかふる噂もなきあり・・・
3 悴侍の遠路を行く時しきりに飢ゑたり・・・
4 一廉なる大名の東堂へ参られけるに・・・
5 当宗の寺へ檀那のもとよりこの者を目代にして庫裏に置き使はれ候へと・・・
6 夫婦ただ二人ゐて餅を焼き食はうとするところへ思ひもよらぬ者来たりたり・・・
7 男と女とまじはりていろいろ物語のありつるに一人言ふ・・・
8 江州安土に箔打十人ばかりみな当宗なり・・・
9 雑談に心の奥の見ゆるかな言の葉ごとに気をつかふべし・・・
10 所の地頭と仲のよき坊主あり・・・
11 酒つくる亭主町屋は空地なしいかにも広きところに住みたや住みたやと・・・
12 当宗の檀那帰依する寺の普請あるに行きて小壁下地をかきけるが・・・
13 堺に智永とて比丘尼あり・・・
14 老人ありわが年を隠していくつと問へどつひに言はず・・・
15 天台禅宗時衆僧三人座を同じいざ大きなる歌詠うて遊ばん ・・・
16 招月供一人にて天の橋立を見物の時詠める・・・
17 妙吉侍者も恋の歌詠まれんやと尋ぬる者ありき・・・
18 連歌に身をやつし心を染め臥すにも起くるにも・・・
19 せせり作事をする時亭主大工と物語するついで・・・
いひ損ひはなほらぬ
1 松永霜台和州信貴の城におはせし時は菓子をすゑて出だすに・・・
2 惣別茄子の枯るるをば百姓みなまふといふなり・・・
3 新しく家を造り移徙して悦びなかばに座頭一人来たりぬ・・・
4 泉州堺の津よりるすん渡りの商人住吉へ社参し宿願に船の絵を書き・・・
5 祈祷連歌の席にて宗匠たる人末座の者に向かひ・・・
6 後世を大事と願ふ人わが頼む寺に入り剃刀をいただき法名を乞ふに教鸞と・・・
7 移徙の連歌に・・・
8 時衆なりし老僧東山より徒歩にて歩み京へ斎に出でけり・・・
9 禁中に御能あり狸の腹鼓と狂言にする・・・
10 移徙の祝儀につかはす使を呼び主の教へけるは・・・
11 越中には舞々に瀾座漣座とて二方あり・・・
12 屋渡りの祝とて人集まり並み居酒宴興を尽せば・・・
似合うたのぞみ
1 かりそめのことにもものごと作勢ある人のわづらひに医者を請じ脈を取らせ・・・
2 よろづに鈍なりし男のしかも富貴なるが男子を四人持ちたり・・・
3 熊野へ参詣する人あり・・・
4 武州岩槻の山下に毎朝鉢を開く者その類二三人寄り合ひ・・・
5 瓦落ち軒崩れ扉はありし名のみにて旧苔道を厚く閉ぢ藜藿深く茂り合ひ・・・
6 数人集まれり居おのが心々の望みを語りつるに一人は言ふ・・・
7 山門に僧ありきいと貧しくて鞍馬に七日参りけれど夢も見ず・・・
8 若き侍一段の馬に乗り駆けさせて通るを鉢開きどもの見て・・・
9 和泉の堺は一町一町に御用心と名を呼びて夜番する者一人宛かならずあり・・・
10 都に候ふ乞食ども暑月の夕涼み木の下に頭を並べ・・・
11 夜咄する衆の中間ども供して行くに・・・
12 連歌師のもとに奉公したりし小者今度は町人かたにゐけり・・・
廃忘
1 是害坊の面に上臈面をかけて出でたり・・・
2 神事能のありけるに地下の庄屋の息子に稽古をさせ・・・
3 真言宗の老僧こざかしき弟子あまた持たれけるあり・・・
4 小者の見目よきが奉公せんとて来たれり・・・
5 亭主の留守となれば常に通ひなれたる者あり・・・
6 若衆と二人寝ねてありし法師が暁雨の降る音を聞き・・・
7 高野の威を借り諸国を歩く聖の若輩なるが一夜の宿を借りけるに・・・
8 貴げもなき出家の旦那と一つ席に寄り合へることあり・・・
9 ある僧新しき小刀の大きなるを持ちて鰹を削りゐけるところへ・・・
10 われが秘蔵の紫小袖が見えぬ・・・
11 若き座頭のよばひして垣へ登り越えんとするところに・・・
12 京にていづれやらん当宗の寺に日念上人といふありし・・・
13 京辺土にてある東堂の細工に蟹醢をするとて・・・
14 月次の初心講に入りてはあれどふるふふるふの風情なれば・・・
15 おどけもの縁を行きちがふとて小姓の口を吸ふ・・・
謡
1 あの月の行く道は何に乗りて歩くなればあれほど足が早いぞよ・・・
2 山姥は福分の人にてあると聞くが耕作はせず商ひの音もなし・・・
3 信長公の御前に連一検校候ひつる時傘持何としたりけん傘袋を落したるを・・・
4 信長公へ熊野新宮方よりの使者寂静坊といふ参り・・・
5 日待の座敷にて手拍子を打ち清経の一門は気を失ひ力をおといてと謡ふに・・・
6 尾張守といふ人の前にてふと伊勢やと謡ひ出し顔を見てやれと思ひ・・・
7 田村に千の手には千の矢先と作りたるがこれは不審な・・・
8 鵺を謡はせ聞きて御殿の大床に伺候しては悪しさうな・・・
9 仏には毛があるかなきものか・・・
10 熊野侍は盃を差す段には必ず謡ひて差すが法なり・・・
11 杜若の謡に三河の国に着きにけりとあるは作りそこなひやと言うて・・・
12 蚤といふ物も一廉の奴やら謡に作つた・・・
13 楊貴妃を作るほどの者が比翼の鳥は何ぞや・・・
14 楊貴妃を玄宗の后といふはえ知らぬ者の言ふことよ・・・
15 三輪にある夜のむつごとに御身いかなるゆゑによりとは作意もない・・・
16 宗養といふ連歌師はいたはしや・・・
17 高雄神護寺の文覚は声の高い人であつたといふが・・・
18 あの幽霊といふ者は、何とて足袋を欲しがるぞ・・・
19 備後と出雲は並びの国なり備後に尺田といふ山家あり・・・
20 津の国兵庫の浦にて祭礼の能ありしに舟弁慶のはてに・・・
21 田舎人の上洛し宿主に向かひ某が京のぼり一世の始めに候ふ・・・
22 正月二十五日法然の御忌を拝せんと人あまたいざなひ知恩院へ参るに・・・
23 熊野に向かひこれは平の宗盛にて候ふと自慢して申されけれど・・・
24 津の国にてある侍の鶉狩して遊ばんと・・・
25 田舎者どもの寄り合ひ小野の小町は美人にて・・・
26 何といふいはれか昔は花になく鶯水にすむ蛙を始め馬などまで歌をば詠みたるぞ・・・
27 三好中納言殿にて大名衆に振舞あり・・・
28 かたのごとくの下手大工能を見物に行きける時・・・
29 蝋を付けたる馬二疋京へ上のぼる・・・
30 昔は番匠の持つ釿もものを言うたとあるが今は聞かぬの・・・
31 三五夜中の新月は宵よりくまなき空の色寝られんものかいざ行かん・・・
32 楊貴妃の能に太夫がしるしの簪を解かんとするに・・・
33 京の丸山といふ所に人あまた遊びける振舞の菜に醤出でたり・・・
34 奥州に幣といふ武家あり・・・
35 津の国海士が崎にて神事能あり・・・
36 銭を貸したる人の方へ年の暮れに使をつかはし乞ひければ・・・
37 和泉の堺に山本雅楽とて小鼓の上手あり・・・
38 実盛生国はといふ一向すまぬ・・・
39 卒都婆小町に垢膩の垢づけるとこれも悪い・・・
40 千手重衡に雪の古枝の枯れてだにと・・・
41 信長公へ客あり御膳出づるに・・・
42 和泉の国万代の八幡にて能あり・・・
43 江口はよき謡なれどそのさまを賤しく作りて悪い・・・
44 当世は刀脇指数寄道具につけ何もみな似せ物あり・・・
45 誓願寺の阿弥陀はいかなる御衣木にてか作りたるらん・・・
46 われはこのほど歯が抜けたとて悲しめば・・・
47 宿老たる主人の前にて関寺を所望せられ・・・
48 能登の徳宥といふ人のもとにて海士を謡ふに・・・
49 太閤秀吉公聚楽にて能を御沙汰ある時本因坊見物する桟敷へ雄長老・・・
舞
1 人あまた朝食に寄り合ひぬ中に一人夕の大酒にいまだ頭が思いと語る・・・
2 烏帽子折を舞ふとて山路殿が吹く物の名をば何と言ふやらん・・・
3 舞は舞ひたし習ふことはならずなまじひに仮名書を読む者・・・
4 江州目賀田の館にて敦盛を舞ふとき・・・
5 和泉の国に松浦肥前守とて武士あり・・・
6 釈迦は大工の子といふまことか・・・
7 伊勢海老をゆでて赤うなると聞いて朱鑓の柄をも・・・
8 幸若の舞を聞きさてさておもしろのふしやくどきや・・・
9 景清を舞ふに法性寺の八つの太鼓をだうだうとぞ打つたりけると・・・
10 ある舞々の奥州に下向するありし道にて会下の寺に泊まる・・・
11 饅頭を菓子に出だしてあればこれは小豆ばかり入りて位高し・・・
12 堺にて牡丹花のもとへくだりたる饅頭を送りければ・・・
13 和泉の堺北の庄に御坊というて本願寺の末寺あり・・・
14 人々池の辺に遊ぶ蛙を見付け塊を打つ・・・
15 殊勝なる長老の十番切を舞ふを聞きて落涙止まらず・・・
16 大夫舞台に出でて八島を舞ふ・・・
17 玉石とて能登に舞々あり和田酒盛一番ならでは覚えず・・・
18 磯辺の庄司といふ人の方にて八島を舞ふに・・・
19 堀河夜討を舞ふ時判官殿と言ふを聞きてそのまま泣く者あり・・・
20 一番に満仲二番に百合若大臣三番に富樫が館を舞ひけり・・・
21 原殿といふ侍の前にて高館を舞ふ・・・
22 人ありて言ふやう判官殿と弁慶とは何の子細ありて仲がよかりしぞ・・・
巻七奥書
巻之八
巻之八目録
頓作(とんさく)
1 ある大名の前にて当時能の上手は誰にてあらんやと・・・
2 尾州熱田大明神の祭礼に貴賤参詣の袖を連ぬる・・・
3 武州江戸家康公天下をしろし召されし始め・・・
4 太閤御所をば豊国大明神と斎ひ吉田の神主に知行一万石給うたるよし・・・
5 今の武蔵の江戸扶桑国の最頂たる御城の始めは・・・
6 信長公濃州岐阜におましの時宮内卿三位侍従武藤四人に碁を打たせおはしますに・・・
7 信長公堺の津へおましなされし時蠣とつめたと海鼠腸と三色を進上せし・・・
8 丹波の国大の原にて洞家の僧一休に向ひ・・・
9 釈の頓阿桑門の風情し内裏見物の折節・・・
10 天龍寺の開山夢窓国師は超過福僧にてまします・・・
11 面とはなぜにいふぞや・・・
12 一休住吉に松斎庵という小庵を結びておはせし時・・・
13 大陰嚢を持ちたる人あり・・・
14 宗長紫野に居住の時延暦寺なる知音の坊より人を出だし・・・
15 僧の三人来たるを見付け途中に皮を敷きこの大河をば何として渡られんや・・・
16 珍客は若衆なりし・・・
17 百合の花をいけたるを見給ひて幽斎法印・・・
18 一人は寒山一人は拾得とめいめいに名を言うてある狂言あり・・・
19 法華の沙門と時衆の法師と知音にてとりどり参会ありしが・・・
20 豊後にて府内の城を廻国の僧見物するに・・・
21 伊勢の桑名に古諫とて医者あり天然と顔ぐせ悪しし・・・
22 青苔を煎豆につけたる菓子太閤の御前へ出だしたれば・・・
23 濃州鏡島にて乙津寺梅の寺といふ・・・
24 甲州と越前と取り合ひの時越前の太守の前にて朝粥すわりぬ・・・
25 幽斎法印ある所へ立ち寄らせ給ふに家老の人立ち出で挨拶つかまつる・・・
26 山寺に人至りてさてもさてもおもしろき境地や候ふ大略八景も候はんと・・・
27 さる大名の中間に異名を長棹といふ者あり・・・
28 九州に木山とて連歌の上手あり・・・
29 翠竹院道三のもとへ脇差を持ち来たりて売らんといふ時・・・
30 京の町にてしだれ柳の物見なるを持ち歩く・・・
31 ある人紺屋に来たりこれの亭主を上手といふはまことか・・・
32 座敷の興に物語をせんとする者あれば・・・
33 食を過ぐす人に向かひあまり飯を多く参るが笑止なよ・・・
34 秀句好きなる者堺に逗留せしが・・・
35 一目見るからむつかしさうなる者紺屋に来たり・・・
36 尾州祐福寺に沢良といふ長老所談のみぎりこも僧一人来たり庭にてきく・・・
37 山城の醍醐寂静が谷といふにて、・・・
38 堺にて質屋に米を十石入置き銭を持ちて来てはその代ほど米を取りて行く・・・
39 御意に入りて常に参りつけたる人の関白殿へ出でんとする時・・・
40 大坂にて鳥屋町を逸興なる男鴫といふ鳥買はう・・・
41 戯れに僧盲目の鼻をつかまへ如何なるか是仏法・・・
42 京の立売へ悪党来たり・・・
43 摂津国布引の滝にて・・・
44 大閤御所風呂に御入りありつるを・・・
45 孔子道を行き給ふに八つばかりなる童会ひぬ・・・
46 京に智玄といふなま物知りなる者あり・・・
47 紫野明月橋にてある俗和尚に向かひ明月橋月なき時いかん・・・
48 雄長老霜月のこと四条の橋を渡らると河上に法師一人水につかりてゐたり・・・
49 法華宗の寺に千部の経ありける半ばいかにもそこつなる男参りて・・・
50 名護屋陣とて大閤御所具足を召し舟より海をのぞかせ給ひ・・・
51 新田秀忠将軍江戸の御城にて・・・
52 雪の日外より人来たり家に入る・・・
53 宗祇修行の時山中にて思ひよりなき人三人行きむかひ一人言ふ・・・
54 誕一検校ある座敷にて・・・
55 大陰嚢持ちたる侍の馬にて渡りたれば・・・
56 虎狼野干といふ四字をかけて置きたり・・・
57 山中検校死去のみぎり年四十八といふを聞きて雄長老・・・
58 西行法師修行の時津の国七瀬の川にて麦粉を食ふとて・・・
59 三十三所の札を打つ巡礼江州醒井の水のもとにのぞみ・・・
60 山岡道阿弥坂本より京に上る・・・
61 近衛院の御宇頼政への難題・・・
62 旅人在所の者にこの川をば何とかいふ・・・
63 東の野州常縁の前に宗祇ゐ給ひしをいくつにならるるぞやと・・・
64 越前と加賀の一向衆と取り合ひの時朝倉殿・・・
65 禅僧先にたちて川を渡る山伏また後より渡るとて・・・
66 木村の宗宜とて吉野の代官なりし・・・
67 三藐院殿へ春可祗候して侍りし・・・
68 広橋大納言殿へ春可参りてありしが壁の根に菊一もと咲きてあり・・・
69 大晦日の夜半ばかりに雨の降りし・・・
70 越後の太守為景公国の中林泉寺へ年頭の一礼とて二月おもむかせ給ふ・・・
71 為景公狩りするついで深山の巌穴に座禅の僧あり・・・
72 細川幽斎法印見附の国府といふ所にて宿主に向かひ・・・
73 此跡は大名にて威勢ありつる人なれどたちまち落人となり、・・・
74 幽斎法印の御内なる松井といふに振舞ひを御沙汰ある時・・・
75 鞠子の里といふにて中間馬の沓を買はんとす・・・
76 山崎宗鑑汁のまはしに当たりたる時江州の兵主殿へ送る・・・
77 大風に壁の覆ひを吹き落されし時・・・
78 ある出家旧友のもとに泊り頭巾を忘れて帰りたれば・・・
平家
1 小松の内大臣重盛公は釈迦の弟にてありしことよ・・・
2 一向不文なる者平家を聞かんと行く・・・
3 土肥の次郎実平は大手の木戸口に主従五騎にてひかへたると教へければ・・・
4 橋の行桁をさらさらと走り渡るをややもすれば忘るる・・・
5 生食を佐々木に賜ぶ・・・
かすり
1 正月二日の朝西よりは針売りの来たり東よりは烏帽子売りの行く・・・
2 正寿庵といふ坊主のもとへはや斎出で来て候ふ・・・
3 武家の愁傷ありと聞いて弔ひにつかはす・・・
4 山芋をば薯蕷といひところを野老といふ・・・
5 黄菊紫蘭咲き乱れたる前栽あると聞いて数寄の人々集まりければ・・・
6 江州志賀の浦に姥あり・・・
7 鎮西より天台山にのぼる学侶ありしがある時疝気をわづらふ・・・
8 京に積善院といふありまた建仁寺に両足院といふあり・・・
9 遠州の内かたはらに古寺あり・・・
10 そなたは源氏の晩鐘を聞かれたことはないか・・・
11 護摩堂の本尊不動の前に供への餅あり・・・
12 会下の寺あり座頭両人客殿にて平家を語る声方丈に聞こゆる・・・
13 会下僧に斎を据ゆる菜に蕨あり・・・
14 京の町にて小さき足駄を売る商人こあしんだこあしんだと・・・
15 座頭の琵琶負うて来たるを見付けおどけ者が・・・
16 宗長の連歌の座敷に初心と見えし座頭一人ありつるが・・・
17 利陽にて鶯菜を持ち一人の女房鶯菜召せ召せと言うて売れば・・・
18 一寺の崇敬世に越えていつくしき喝食ありつるが・・・
19 喝食あり東堂に膳を据ゆる時和尚あつぱれ月一輪かな・・・
20 水上の兎月に驚くこといかん・・・
21 あつぱれ円い水かな・・・
22 車に片輪あるを見て・・・
23 大善知識を見て・・・
24 石上の松は座禅の僧に似たよ・・・
25 漁人妬梅花・・・
26 吾妻人の歌いみじう好み詠みけるが・・・
27 津の国に多田といふ在所の候ふ・・・
28 有馬の湯に三日月のさし入りたれば月の湯治は何の病ぞ・・・
29 静かに歩みて額を打つてすよ・・・
30 ある僧冬扇を持ければ雪中の扇に何の役かあらん・・・
31 見ぬ恋をする時・・・
秀句
1 もと同学たりし人のもとへ広韻をちと貸し給へと言ひやりたれば・・・
2 若衆狂ひをすると言うて妻色に出でて腹立す・・・
3 京にて傍輩の中間行き合ひそちは今、誰のもとに奉公するぞ・・・
4 宗祇と宗長連れ立ち三井寺を見物の時・・・
5 信長公東寺のあたりを過ぎさせ給ふことあり・・・
6 百姓の福力なるあり・・・
7 鼬眉目よしま一度来い顔見う・・・
8 和泉の堺にてこれへ参る道に鈍なる男あり・・・
9 夏の天に数日雨なうて民家旱損を歎き・・・
10 須弥の四洲の内天より降り物おのおのかはれり・・・
11 京にてさかしき座頭月忌の座敷へ遅く来たり・・・
12 長岡越中守殿豊前の国ひるかの神へ参詣あれば・・・
13 ある年の春幽斎法印坂本の寿斎といふ碁打ちを連れて吉野参詣ありしが・・・
14 義政将軍の御前に同朋万阿弥罷り居たる時・・・
15 世の中はいづくにいかなる者が親類にあらんも知らぬなど語る・・・
16 広橋大納言殿兼勝公へ相国寺の保長老より使僧をもつて・・・
17 宗牧へある方より小角豆と茄子とを送りたれば・・・
18 周桂入江殿に知音の人ありて朝帰りの時宗牧行き合ひて詠める・・・
19 猪斎へ田舎よりおとづれとて薏苡仁と茴香とをのぼすることありし・・・
20 旅人敦賀にて一夜の宿を貸し給へと言ふ・・・
茶の湯
1 西行法師伊勢の宇治に住みける時の歌・・・
2 茶是釣睡釣とあり・・・
3 泉州光の滝炭を定家卿の歌とや・・・
4 祇公信濃路にて山家の草庵に立ち寄り茶を所望ありつるに・・・
5 和泉の国篠田の茶屋に宗祇一夜泊まり給ひしことあり・・・
6 古田織部助に数寄あり濃茶たちて出だしけるに客の言ふ・・・
7 ある寺の住持檀那へ見舞はれける土産の茶あり・・・
8 足利の門前に姥あり往来の出家に茶を施す・・・
9 時しも夏の暑きころ民家に姥ら集まり茶事してゐけるが・・・
10 法師あまた少人をともなひ清水へ詣でしがまづ茶屋に寄り休らふ・・・
11 いかにもまつたき福人あり茶の湯といふには何がいるものぞやと・・・
12 古今万葉集といふ壺を持ちてくすむ人あり・・・
13 山家に居住の貧僧あり・・・
14 歴々の衆三人ともなひ朝会に行く・・・
15 東堂のもとへ人来たつて問ふ茶堂と申す者候ふまた茶堂と申す者候ふ・・・
16 大相国御数寄ありし時濃茶を挽き奪ひ御秘蔵の井戸茶碗割れけり・・・
17 雄長老ある寺に立ち寄りこれに数寄屋はないか・・・
18 後陽成院の御時御口切とて御壺出でたりつるを雄長老・・・
19 慈照院殿愛に思し召さるる壺あり名を何とか名付けんと御工夫ある・・・
祝ひすました
1 抑四十六代孝謙天皇の御宇天平勝宝元年己丑の春始めて奥州より黄金を献ず・・・
2 正月は三ヶ日の食ひ物をも昔より祝ひて書きたり・・・
3 左大臣信長公ある年の元日暁雑煮の御膳すわりけるを御覧ずれば・・・
4 同じ信長公へ諸大名おのおの元日の出仕ありつる座敷にて・・・
5 古道三信長公へ始めて御礼に出でらるる・・・
6 元日いまだ夜深きうちによろづ物を売り買ふ人えびすを求め迎ふることは・・・
7 若狭の太守武田殿無縁の出家をかかへ置かれ寺など建て憐愍あさからず・・・
8 商人の習ひにて正月は蔵の口に必ず鯛を懸くる例あり・・・
9 ある人福を祈りのため初瀬の観音に一七日参籠しけるが・・・
10 もの祝ひする商人ありて初春の朝ごと昆布搗ち栗など・・・
11 桶結のありしが元日の朝ふと起き起き女房の言ひけるやうは・・・
12 江州甲賀大原の庄に菊田の玉木といふ者あり・・・
13 氏康公の城中にて昼狐の鳴きたることありき・・・
14 京都六条道場に文閑といふ連歌の作者ありき・・・
15 夢に卒都婆を見ると思ひ覚めて後わづらふことあり・・・
16 江州堅田といふ所の地頭へ毎年大晦日に浦の百姓・・・
17 古相国駿河の御城出で来たる祝ひに三百韻の連歌興業なされし時・・・
跋・奥書
跋
巻八奥書