text:sesuisho:n_sesuisho4-093
醒睡笑 巻4 唯あり
4 途中に一人の姥やすらひものあはれさうに泣きゐたり・・・
校訂本文
途中に一人の姥(うば)やすらひ、ものあはれさうに泣きゐたり。行き合うたる者、「何事の悲しみありて、そちは涙にむせぶぞや」と問ひければ、「さればとよ、あれへ行く男を見れば、褐(かちん)の裃(かみしも)を腰につけ、傘をうちかけ、懐(ふところ)にささらのやうなる物の見えたるは、疑ひもなき説教ときなり。『あの人の胸の内に、いかほどあはれに殊勝なることのあらうずよ』と、思ひやられて袂(たもと)を絞る」と。
ただありの人を見るこそ仏なれ仏といふもただありの人
いざさらば泣きて手向けん七夕に涙よりほか身にもあらばや
翻刻
一 途中にひとりの姥やすらひ物あはれさ うになきゐたり行あふたる者何事のかな しみありてそちはなみたにむせふぞやと とひけれはされはとよあれへ行男を みれはかちんのかみしもを腰につけ傘 をうちかけふところにささらのやうなる/n4-56r
物の見えたるはうたかひもなき説教(せつきやう)とき也 あの人のむねの内にいかほとあはれに しゆせうなる事のあらふすよとおもひ やられて袂(たもと)をしほると 唯ありの人を見るこそ仏なれ 仏といふもたたありの人 いささらは泣てたむけん七夕に 涙より外身にもあらはや/n4-56l
text/sesuisho/n_sesuisho4-093.txt · 最終更新: 2022/01/24 22:22 by Satoshi Nakagawa