ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:sesuisho:n_sesuisho8-136

醒睡笑 巻8 茶の湯

2 茶是釣睡釣とあり・・・

校訂本文

<<PREV 『醒睡笑』TOP NEXT>>

「茶是釣睡釣(茶はこれ睡りを釣るつりばり)」とあり。また、食を消すともいへり。

  わが門(かど)に目ざまし草1)のあるなべに恋しき人は夢にだに見ず

などいうて、人々讃めはやし飲む。

末座(ばつざ)に百姓の候ひて、「それならば、われわれは、一期、茶を断ち申さん。終日(ひねもす)骨折りても、夕べとくと眠(ねぶ)れはぞ、辛労をも忘れ、また、たよたよと乏しくて、食ふ食の消えてはん、何の益あらん。あら、いやの茶屋2)」と頭を振りたり。

されば、「憂喜依人(憂喜人に依る)」といふ題にて、

  ますらをが小田かへすとて待つ雨を大宮人や花にいとはん

と詠める。さまこそかはれ、心ばへ等しかるべくや侍らん。世をおもしろく住む人は茶を愛し、賤(しづ)の男(を)は茶を否(いな)と、狂言せし、一旦は理(ことわり)あり。

  何となく人に言葉をかけ茶碗おしのごひつつ茶をも飲ませよ

  花をのみ待つらん人に山里の雪間(ゆきま)の草の春を見せばや

利休3)は、わびの本意とて、この歌を常に吟じ、心がくる友に向かひては、「かまへて忘失せざれ」となん。

  契りあれや知らぬ深山(みやま)のふしくぬぎ友となりぬる閨(ねや)の埋火(うづみび)

これは夢庵4)の歌にてあり。古田織部、冬の夜のつれづれに吟ぜられし。

<<PREV 『醒睡笑』TOP NEXT>>

翻刻

一 茶是釣睡釣とあり又食を消すともいへり
   我門に目さまし草のあるなへに
    恋しき人は夢にたに見す
  なといふて人々ほめはやしのむ末座に百姓の/n8-51l
  候てそれならは我々は一期茶をたち申
  さん終日ほねおりてもゆふべとくとねふれは
  そ辛労をもわすれ又たよたよととほしくて
  くふ食のきえてはなんのゑきあらんあらいや
  の茶屋と頭をふりたりされは憂喜依
  人と云題にて
   ますらおか小田かへすとて待雨を
    大宮人や花にいとはん
  とよめるさまこそかはれ心はへひとしかるべくや/n8-52r
  侍らん世をおもしろくすむ人は茶を愛し
  賤の男は茶をいなと狂言せし一旦は理有
   何となく人にことはをかけ茶碗
    をしのこひつつ茶をものませよ
   花をのみまつらん人に山里の
    雪まの草の春を見せはや
  利休はわひの本意とて此歌を常に吟し
  心かくる友にむかひてはかまへて忘失せされ
  となん/n8-52l
   契りあれやしらぬ深山のふしくぬ木
    友と成ぬる閨(ねや)の埋火
  是は夢庵の哥にてあり古田織部冬の
  夜のつれつれに吟せられし/n8-53r
1)
茶の異称。
2)
「茶や」か。
3)
千利休
4)
肖柏
text/sesuisho/n_sesuisho8-136.txt · 最終更新: 2023/02/07 22:09 by Satoshi Nakagawa