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醒睡笑 巻5 上戸
25 師走の十日ごろ一条の辻に大酒に酔ひ余念もなく寝ねてゐる者あり・・・
校訂本文
師走の十日ごろ、一条の辻に大酒に酔(ゑ)ひ、余念もなく寝ねてゐる者あり。また、その日鳥羽より用をととのへに上りたる男あり。これもちくと酔うたるが、かれを見付け「そちの在所はいづく」と問ふに舌回らず、わけもなき声つきにて、「あまがさき1)」と言ふやうなり。「不便なるかな」と車に乗せ、鳥羽に連れ行き、便船(びんせん)を尋ね乗せてやりぬ。かの者を旅人の宿に舟より上げ置く。
酔覚め、「これは何事ぞ。われは京の六条にて、『あまききや』といふ者にてこそ候へ」と、あきれたたずむ。件(くだん)の意趣を語り聞かするにぞ、肝(きも)をつぶし、なかなかにて、船賃・旅籠の営みに胴服(だうふく)を沽却(こきやく)し、恥かしきさまにて宿に帰りつるも、一笑。
翻刻
一 師走(しはす)の十日比一条の辻(つし)に大ざけにゑひ余念(よねん) もなくいねてゐる者あり又其日鳥羽より 用をととのへにのほりたる男ありこれもちく とゑふたるがかれを見付そちの在所はいつくと とふに舌(した)まはらずわけもなきこはつきにて あまがさきといふやうなり不便(ふびん)なるかなと 車にのせ鳥羽につれゆき便船(ひんせん)をたつね のせてやりぬ彼者を旅人のやどに舟より あけをく酔さめ是は何事そ我れは京の/n5-50r
六条にてあまききやといふ者にてこそ候へ とあきれたたずむ件の意趣をかたりきか するにぞ肝(きも)をつぶし中々にて船賃(ふなちん)旅(はた) 籠(ご)の営(いとなみ)にだうふくを沽却し恥(はつ)かしき さまにて宿に帰りつるも一笑/n5-50l
1)
尼ケ崎
text/sesuisho/n_sesuisho5-067.txt · 最終更新: 2022/03/13 17:04 by Satoshi Nakagawa