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text:sesuisho:n_sesuisho3-005

醒睡笑 巻3 文字知り顔

5 備後国に久代とて形のごとくの大名あり・・・

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備後国に久代(くしろ)とて形のごとくの大名あり。土生(はぶ)といふ侍を、芸州元就1)へ歳暮の礼儀につかはされし。

対面あつて、「出雲の国に、雪はいかほど降りたるぞ」とあれば、かの土生、手をつき、「雲州の雪(せつ)は馬足不立(ばそくふりふ)にして恰(あたか)も鉄を伸べたるがごとし」と申し上げけり。大きに気色損じ、「今より以後、この者、使に無益(むやく)」とぞ。ただ、「出雲は大雪にて馬のかよひもござない」と申さんものを。

また、かの土生、在郷(ざいがう)に住む侍なれは、過半(くわはん)耕作などしけり。ある五月雨の晴れ間に、鋤(すき)を杖に突き静かに歩(あり)く。百姓行き会ひ、「いづれへ」と問ひければ、「田水見行(でんすゐけんぎやう)」と答ふ。

「田の水を見に行く」と言うたはまし。

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一 備後国に久代(くしろ)とて如形の大名あり土生(はぶ)と
  いふ侍を藝州元就(もとなり)へ歳暮の礼義に
  遣れし対面あつて出雲の国に雪は
  いかほとふりたるぞとあれば彼土生手を
  つき雲州の雪(せつ)は馬足(はそく)不立にして恰(あたかも)鉄(てつ)を
  のへたるがごどしと申上けり大に気色損(そん)じ
  自今(いまより)以後此者使に無益とぞ唯出雲は大
  雪にて馬のかよひも御座ないと申さん物を
  又彼土生(はぶ)在郷にすむ侍なれは過半(くわはん)耕作(かうさく)/n3-5r
  などしけりある五月雨のはれまにすきを
  杖につきしづかにありく百姓行あひいづれ
  へととひけれは田水見行とこたふ
         田の水を見にゆくといふたはまし/n3-5l
1)
毛利元就
text/sesuisho/n_sesuisho3-005.txt · 最終更新: 2021/09/12 11:30 by Satoshi Nakagawa