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text:sesuisho:n_sesuisho2-027

醒睡笑 巻2 貴人の行跡

7 河内の国に交野といふ所あり・・・

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河内の国に交野(かたの)といふ所あり。「交野の御狩」と書ける、これなり。かの領主に大塚彦兵衛とかやいうて、あたりまで崇敬(そうぎやう)の人ありき。宗祇と入魂(じつこん)他(た)にことなり。

卯月の初めつかた、祇公立ち寄り給ひ、休息のほどありし、いろいろ風流の物語に時うつりて、「何と、祇公はいまだ郭公(ほととぎす)の初音(はつね)をば聞き給はぬや」。「いな、夢にだにもおとづれず」とあり。大塚、「さらば、われ発句をつかまつり、鳴かせん」とて、

  鳴けや鳴けわが領内の郭公

とあれば、祇公の脇に、

  孫子(まごこ)をつれて鳴け時鳥(ほととぎす)

第三をする人なし。「とてものことに沙汰候へ」とあれば、また祇公、

  とにかくに御意(ぎよい)にしたがへ郭公

時にあたり人の心をやぶらんは、興さめて見えぬべし。祇公の挨拶、いたされ候ふかな。

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一 河内の国に交野といふ所ありかた野の
  御狩とかけるこれ也彼領主に大塚彦兵衛
  とかやいふてあたりまて崇敬の人ありき
  宗祇と入魂他にことなり卯月のはしめ
  つかた祇公たちより給ひ休息のほとありし/n2-16l
  いろいろ風流の物語に時うつりてなにと
  祇公はいまた郭公のはつ音をは聞給はぬや
  いな夢にたにもをとつれすとあり大塚さらは
  われ発句を仕なかせんとて
   なけやなけわか領内の郭公
  とあれは祇公の脇に
   孫子をつれてなけ時鳥
  第三をする人なし迚の事にさた候へとあれ
  は又祇公/n2-17r
   とにかくに御意にしたかへ郭公
  時にあたり人の心をやふらんは興さめて見えぬ
  へし祇公のあいさついたされ候かな/n2-17l
text/sesuisho/n_sesuisho2-027.txt · 最終更新: 2021/07/18 22:38 by Satoshi Nakagawa