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醒睡笑 巻6 推はちがうた
35 ある所に禅門目の上に大なる癭をもてり・・・
校訂本文
ある所に、禅門、目の上に大なる癭(こぶ)1)をもてり。かなしきながら、せん方なく過ごしけるに、人の語るやう、「そこの里に住むなる老人、山路を通ふとて道にて鬼に行き合ひ、年ごろうるさかりし目の上の癭を取られ2)一門眷属(けんぞく)まで喜びかぎりなし」と言ふを聞き、あながちにこれをうらやみ、はるはるとその人のもとを訪ねあひ、ありしおもむきを尋ねきはめ、癭を取られん望みに、かの辻堂に行き待ちゐけり。
案のごとく、何とも知れぬ者ども、夜更け、多く集まり、どしめきののしり、酒宴を始むる時、禅門、円座を腰に付け踊りければ、「また来しなり。約束を違(ちが)へず来たりたるが嬉しきに、以前の癭を取らせよ」と言ふまま、ひしとうち付けたれば、思ひのほかなる災ひをもとめ、癭3)二つの主(ぬし)になりて帰りぬ。
翻刻
一 ある処に禅門目の上に大なる癭(こぶ)(本ノママ)をもて りかなしきなからせんかたなく過こしけるに人 のかたるやうそこの里にすむなる老人山路をか よふとて道にて鬼に行合年比うるさかり し目の上の癭をはられ一門眷属まてよ ろこひかきりなしといふをききあなかちに/n6-58l
是をうらやみはるはると其人のもとをたづね あひありしおもむきをたつねきはめ癭をとら れん望に彼辻堂に行まちゐけり案のこ とく何共しれぬ者ども夜更多あつまりとし めきののしり酒宴をはしむる時禅門円座を 腰につけおどりけれはまたきしなり約束を ちがへす来りたるか嬉しきに以前の癭をと らせよといふままひしとうち付たれはおもひ の外なる災をもとめ癭(本ノママ)二つのぬしになり/n6-59r
て帰りぬ/n6-59l
text/sesuisho/n_sesuisho6-118.txt · 最終更新: 2022/06/03 14:47 by Satoshi Nakagawa