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text:sesuisho:n_sesuisho7-003

醒睡笑 巻7 思の色を外にいふ

3 悴侍の遠路を行く時しきりに飢ゑたり・・・

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悴侍(かせざむらひ)の遠路を行く時、しきりに飢ゑたり。見れば、ただ一人連れたる中間(ちうげん)、腰に飯をつけて持てり。石の上にだうどゐて、「おのれか腰にある飯(めし)を、われにおそれよ」と。中間、是非に及ばず、さし出だしざまに、「これは恐れ惜しう1)ござあれども」。

「恐れ」は休め字、「惜しい」は定(ぢやう)であらうぞ2)

雄長老

  桜咲く遠山までの花見にはながながし日ぞ持てや中食(ちうじき)

中間のついでに、玄旨法印3)の御内(みうち)に、大(おほ)ほとけといふ中間あり。暇(いとま)を乞ひ申し、髪を剃り、衣着て歩(あり)くに、大坂の道にて馬上より見付け給ひ、「今のは、大ほとけかや」。「なかなか」と答ふ。すなはち、

  大ほとけ頭(あたま)を剃ればまた仏これぞ二仏の中間のはて

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一 悴(かせ)侍の遠路を行時しきりに飢たり見れば
  たた一人つれたる中間こしに飯をつけて
  もてり石(いし)の上(うへ)にたうとゐてをのれか腰(こし)に
  あるめしをわれにをそれよと中間是非(せひ)
  にをよばすさし出しさまにこれはおそれお
  しう御座あれとも
   恐れはやすめ字おしいは定(しやう)であらふぞ  雄長老
   桜さく遠山まての花見には
   なかなかし日そもてや中食/n7-4l
  中間のつゐてに玄旨法印の御内に大ほ
  とけといふ中間あり暇を乞申髪をそり衣
  きてありくに大坂の道にて馬上より見付
  給ひ今のは大ほとけかや中々とこたふ即
   大ほとけあたまをそればまた仏
    是ぞ二仏の中間のはて/n7-5r
1)
恐れ多い+惜しい
2)
底本この文一字下げで小書き
3)
細川幽斎
text/sesuisho/n_sesuisho7-003.txt · 最終更新: 2022/06/12 15:27 by Satoshi Nakagawa