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醒睡笑 巻4 聞こえた批判
4 比叡山にて北谷の児は雪に過ぎたるものやあらむと愛せられし・・・
校訂本文
比叡山にて北谷の児は、「雪に過ぎたるものやあらむ」と愛せられし。また南谷の児は、「花にまされるながめやあらん」と興ぜられし。
かかりしほどこそありけれ、後には、あなたこなた、心なきに心をつけ、いさかひになり、花をば悪しく言ひ散らし、雪をば異なものに言ひ消し、雪の方よりは花を褒むる狼藉の類を寄せて討たん」と言ふ。また、花の方よりは、「雪を褒むるうつけどもを、ただはたいてのけよ」と、互ひに怒(いか)れる心猛く、山の騒ぎ、ことのほかなりし。
西三条逍遥院殿1)、伝へ聞こし召され、わざと山に御登りあり。「雪にめでられしも理(ことわり)あり。
花ならば咲かぬ梢(こずゑ)もあるべきに何にたとへん雪のあけぼの
花に心をそめられしも、もつともゆゑあり。
雪ならば幾度(いくたび)袖をはらはまし花の吹雪の志賀の山越え
自今以後、勝劣(しようれつ)を争はず、中をなほりて、同入和合(どうにふわがふ)の床(ゆか)に勤学(きんがく)あれ」と、しづめてこそ御帰りけれ。
翻刻
一 比叡(ゑい)山にて北谷(きたたに)の児は雪に過たる物やあら むと愛せられし又南谷の児は花にまされる 詠やあらんと興(けう)せられしかかりしほとこそあ りけれ後にはあなたこなた心なきに心をつ けいさかひになり花をはあしくいひちらし/n4-5r
雪をばいな物にいひけし雪のかたよりは花を ほむる狼藉(ろうせき)のるいをよせてうたんといふ又 花のかたよりは雪をほむるうつけともをたた はたいてのけよとたがひにいかれる心たけく 山のさはき事の外なりし西三条逍遥院殿 つたへきこしめされわさと山に御のほりあり 雪にめてられしも理あり 花ならは咲ぬ梢もあるへきに 何にたとへん雪の明ほの/n4-5l
花に心をそめられしも尤ゆへあり 雪ならは幾度袖をはらはまし はなのふふきの志賀の山越(こえ) 自今以後勝劣(せうれつ)をあらそはす中をなをり て同入和合(とうにうわかう)の床に勤学(きんかく)あれとしつめて こそ御帰りけれ/n4-6r
1)
三条西実隆
text/sesuisho/n_sesuisho4-004.txt · 最終更新: 2021/11/11 18:09 by Satoshi Nakagawa