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text:sesuisho:n_sesuisho1-089

醒睡笑 巻1 ふはとのる

2 仁物らしき男朷の前後に鯛を入れ担ひ・・・

校訂本文

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仁物(じんんぶつ)らしき男、朷(あふご)の前後に鯛を入れ担ひ、「鯛は、鯛は」と売りけるを、ある家の主(ぬし)呼び入れて、「けしからず寒き日1)なり。まづちと火にもあたり、茶をも飲みてお通りあれ。ちらと一目見しより、これはただならず。『いにしへはさもありし御身なりしが、思はずも世に落ちぶれて、かかるわざをもし給ふにや』と、涙をこぼし候ひぬ」と言ひければ、静かに火にあたり、茶など飲みて、立ちざまに大きなる鯛を一つ、亭(てい)の前にさし出だしたり。「こは何としたること」と斟酌(しんしやく)しければ、「いや今日は心ざす先祖の頼朝2)の日なり」。

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一 仁物らしき男朷(をよこ)の前後にたいを入になひ
  たいはたいはとうりけるをある家のぬし
  よひいれてけしからすさむき目也まづちと/n1-39r
  火にもあたりちやをものみておとをり
  あれちらと一目見しよりこれはたたな
  らすいにしへはさもありし御身なりしか
  おもはすもよにおちふれてかかるわさを
  もし給ふにやと涙をこぼし候ぬといひけ
  れはしつかに火にあたり茶なとのみてた
  ちさまに大なるたいを一つ亭のまへにさし
  出したりこはなにとしたる事としんしや
  くしけれはいやけふは心さすせんその頼朝/n1-39l
  の日なり/n1-40r
1)
「日」は底本「目」。諸本により訂正。
2)
源頼朝
text/sesuisho/n_sesuisho1-089.txt · 最終更新: 2021/05/06 18:30 by Satoshi Nakagawa