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text:sesuisho:n_sesuisho8-162

醒睡笑 巻8 祝ひすました

9 ある人福を祈りのため初瀬の観音に一七日参籠しけるが・・・

校訂本文

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ある人、福を祈りのため初瀬の観音1)に、一七日参籠(いちしちにちさんろう)2)しけるが、やうやく六日目の夜半ばかりに、にはかにわが左の足に腫れ物の出で来て、ひたもの腐りゆくを、「こはそもいかんせん」と悲しび侍るがうちに、夢なれば覚めてけり。

明くるを遅しと宿坊に帰り、右の旨(むね)を語りければ、「めでたき大悲3)の告夢(かうむ)なり。やがて利生(りしやう)に4)おあし5)を腐るほど持ち給はん」とぞ申しける。嬉しげにて、またこもりぬ。

満ずる夜の夢に、両の足に物出で来て、左も右も腐ると思ひ、おどろきぬれば夢にてあり。件(くだん)の旨、また宿坊に語れば、「いよいよ福聚海無量(ふくじゆかいむりやう)の利生あらたに、れうそく6)を腐るほど持ち給はん」とぞ祝ひける。

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翻刻

一 ある人福をいのりのためはつせのくはんおんに
  一七日さんつかしけるがやうやく六日めの夜半
  はかりに俄に我かひたりのあしにはれ物のいて
  きてひた物くさりゆくをこはそもいかんせん
  とかなしひ侍かうちに夢なればさめてけり
  あくるを遅しと宿坊にかへり右のむねを/n8-64l
  かたりけれはめでたき大悲の告夢なりやか
  てりりやうにおあしをくさるほともち給はん
  とぞ申ける嬉しけにて又こもりぬまんする
  夜の夢に両の足に物いてきて左も右も
  くさるとおもひおとろきぬれは夢にてあり
  件のむね又宿坊にかたれはいよいよ福聚海
  無量の利生あらたにれうそくをくさる
  ほどもちたまはんとぞいはひける/n8-65r
1)
長谷寺
2)
「参籠」は底本「さんつか」。諸本により訂正。
3)
観世音菩薩
4)
「利生に」は底本「りりやうに」。諸本により訂正。
5)
御足・御銭
6)
料足・両足
text/sesuisho/n_sesuisho8-162.txt · 最終更新: 2023/05/04 14:46 by Satoshi Nakagawa