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醒睡笑 巻2 貴人の行跡
9 少年に学びざれば老後に知らずと言へり・・・
校訂本文
「少年に学びざれば老後に知らず」と言へり。貴人とあるは、幼なけれども我意にまかせ育ておこなふゆゑ、大略は文字言句(もんじごんく)にうとき人、ままあり。
しかる間、さる大名の直筆にて、連署(れんしよ)を回さるることあり。若き侍の持ち歩(あり)き、返書を開けながら、「さて、今度の御使ひに罷り出でてこそ肝をつぶし候へ。日ごろ存知にかはり、あれやうにこなたの殿に、人のおぢひろめくことは御座ない」と申しけり。「さて、何と言うて恐るるぞ」と問はれ1)しかば、「その義あり。こなたの文を開きては、そのまま『あつ、こはいで、こはいで2)』と、さきざきにて感ぜられたほどに」と言へば、「さぞあらん」とばかりなりしも、大名に似合ひてあり。
翻刻
一 少年にまなびざれは老後にしらずといへり 貴人とあるはおさなけれとも我意にまかせ そたておこなふ故大略は文字言句に うとき人まま有しかるあひださる大名の 直筆にて連署をまはさるる事ありわかき/n2-18r
侍のもちありき返書をあけなからさて 今度の御使に罷出てこそ肝をつふし候へ 日比存しにかはりあれやうにこなたの殿 に人のおちひろめくことは御座ないと申けり さてなにといふておそるるそととほれしかは 其義ありこなたの文をひらきてはそのまま あつこはいてこはいてとさきさきにてかんせられ たほとにといへはさそあらんとはかりなり しも大名に似あひてあり/n2-18l
text/sesuisho/n_sesuisho2-029.txt · 最終更新: 2021/07/20 11:32 by Satoshi Nakagawa