text:sesuisho:n_sesuisho5-043c
醒睡笑 巻5 上戸
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校訂本文
俗云はく、「『飢不撰糟糠。(飢ゑるに糟糠を撰ばず。)』とは実(まこと)なるかな。素問1)に云はく、「天食人以五気、地食人以五味。(天は人を食ふに五気を以てし、地は人を食ふに五味を以す。)』と。その気味にも取り相ふ無きは、ただ飽きて足ることを望む故ならん。風味の好しなんぞ堪へん。『把酒対西山。(酒を把りて西山に対す。)』とこそ、山谷2)も愛しつれ。何の興も無きを麁抹(そまつ)食はば、餅に噎(む)せん」。
僧曰はく、「心の不同は面の如し。貴賤好悪、いかでか一般とならん。物ごとに愛すれば、すなはちその悪しきことを知らず。汝か賤むる餅は我が賞する所なり。『烹茶煮餅、座僧坊。(茶を烹(に)餅を煮て、僧坊に座す。)』ともあり。また、『煮餅臥北窓。保此已徼幸。(餅を煮て北窓に臥す。これを保たばすでに徼幸(ぎやうかう) )。』と書きたる儒者もあるげに候ふ。『人間万事酔如泥。(人間万事、酔へば泥の如し。)』と訕(そし)りたる酒に貪着(どんちゃく)するもうるさし。
翻刻
鴆毒不可思見ヘタル物俗云飢ニ不トハ撰糟糠実哉素 問ニ云天食フニ人以シ五気地食人以スト五味ヲ其気味ニモ無取 相者唯飽テ望ム足コトヲ故ナラン風味好シ那ク堪ン把テ酒ヲ対ト西山ニ コソ山谷ニモ愛シツレ何ノ無ヲ興モ麁抹食ハハ噎ン餅ニ僧曰心ノ不同ハ如面ノ/n5-24r
貴賤好悪争一般ト毎物愛則不知其悪コトヲ汝カ賤ル餅ハ我 所賞スル也烹茶煮テ餅ヲ座シ僧坊ニトモアリ又煮テ餅ヲ臥ス北窓ニ 保タハ此ヲ已ニ徼幸ト書タル儒者モ有ケニ候人間万事酔テ如泥ノ訕タル 酒ニ貪着モ右流左止俗云従釈提桓因賜苾蒭種子/n5-24l
text/sesuisho/n_sesuisho5-043c.txt · 最終更新: 2022/03/22 18:48 by Satoshi Nakagawa