text:sesuisho:n_sesuisho1-093
醒睡笑 巻1 ふはとのる
6 悴侍の妻あり不思議に夫に離れぬ・・・
校訂本文
悴侍(かせざむらひ)の妻あり。不思議に夫に離れぬ。日ごろ彼が頼みし寺に寄せて、追善の営みをなせども、しかしかのこともなかりし。
七日にあたる今日、位牌の前に参り愁涙(しうるゐ)袖を絞りけるに、住持出で合ひて言はるるやう、「冥途は霧もなく晴れがましや。あらゆる大名小名のつきあひにて候ふに、二字を受けたる人の、挟箱(はさみばこ)を一つ持たせぬほどなれば、身すぼらしく候ふと、確かに経文に見えてあり」と示しければ、「いたはしや。なりが悪(わる)からうず」とて、ただ一つある挟箱をぞ施しける。
翻刻
一 悴(かせ)侍の妻ありふしきに夫(おつと)にはなれぬ日 比かれがたのみし寺によせて追善(ついぜん)のいと なみをなせともしかしかの事もなかりし 七日にあたるけふいはいのまへに参り愁涙(しうるい)/n1-42r
袖をしほりけるに住持(しうし)出あひていはるる やうめいとはきりもなくはれかましやあらゆる 大名小名のつきあひにて候に二字をうけ たる人のはさみ箱を一つもたせぬほとなれは 身すぼらしく候とたしかに経文に見えて ありとしめしけれはいたはしやなりかわる からふずとて唯一つあるはさみはこをそ ほとこしける/n1-42l
text/sesuisho/n_sesuisho1-093.txt · 最終更新: 2021/05/08 17:27 by Satoshi Nakagawa