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醒睡笑 巻5 上戸
4 乱舞時過ぐる酒盛りに正体なく呑み酔ひたる者・・・
校訂本文
乱舞(らんぶ)時過ぐる酒盛りに、正体なく呑み酔(ゑ)ひたる者、なまじひに家に帰らんと思ひ、たどるたどる歩みたるが、頃しも師走寒(かん)の前、雪も霜も白妙なる水堀のありしを渡りかかり、ひたもの踏み迷ひ、深きところに入りぬ。やうやう首ぎはばかりなる水に、溺れながら眠(ねぶ)りゐたれば、氷身をとぢても知らず。
宿には、「人皆帰りたるに、何とておくぞや」と、あたりの者まて催し、行きて見れば、堀のかたへに人の頭(あたま)の見ゆる。立ち寄り氷を打ち割り、言葉をかけければ、件(くだん)の客人、「誰(た)そ、夜も明けぬに門(かど)を叩くは。異な奴」と言ふ。
翻刻
一 乱舞(らんふ)時過る酒盛(もり)に正体なく呑(のみ)酔(ゑひ)たる もの憗(なましい)に家に帰らんと思ひたとるたとるあゆみ たるがころしもしはす寒のまへ雪も霜も 白妙なる水堀のありしをわたりかかりひた ものふみまよひふかき処に入ぬやうやうくびぎは ばかりなる水におぼれなからねふりゐたれば 氷身をとぢてもしらずやとには人皆帰りたるに なにとて置ぞやとあたりの者(もの)まてもよほし/n5-40l
行て見れは堀のかたへに人のあたまのみゆる 立より氷をうちわり言(ことは)をかけければ件の 客人たそ夜もあけぬに門(かと)をたたくは いなやつといふ/n5-41r
text/sesuisho/n_sesuisho5-046.txt · 最終更新: 2022/03/10 22:36 by Satoshi Nakagawa