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醒睡笑 巻2 吝太郎(しはたらう)
16 紀州根来に小谷の西原といふ人かたのごとく有徳なりしが・・・
校訂本文
紀州根来1)に小谷(こたに)2)の西原といふ人、かたのごとく有徳(うとく)なりしが3)、中間(ちうげん)置かんとする時、内の者に言ひわたすやう、「給分(きふぶん)をば、いかほど値切りて定めよ。日4)に三度の食ひ物はほしいほど食はせん」と、かたく約束をばしながら、一向さはなく、下行(げぎやう)いかにも簡素に、ひもじさやるせなし。
案に相違したるむね訴訟しければ、「さればこそ、始めより『食はほしい5)ほど』と定めたは。『腹一ぱい食はせう』とは言はなんだ」と。
いづれ身をもつ人の工夫(くふう)は、そともくづがない。
吉野川その水上(みなかみ)をたづぬれば檜原(ひばら)が雫(しづく)槙(まき)の下露
翻刻
一 紀州根来に北谷の西原と言人かたのことく 有徳なりし中間をかんとする時内の者 にいひわたすやう給分をはいかほとねきり/n2-44l
て定よ目に三度のくひ物はほしいほどくは せんとかたく約束をはしなから一向さはなく けぎやういかにもかんそにひもしさやるせなし 案に相違したるむね訴訟しけれはされ はこそ始より食はほしい程と定めたは腹一 ぱいくはせうとはいはなんたと いつれ身をもつ人の工夫はそともくずかない 吉野川その水上をたつぬれは 檜原か雫槙の下露/n2-45r
text/sesuisho/n_sesuisho2-086.txt · 最終更新: 2021/08/30 18:41 by Satoshi Nakagawa