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text:sesuisho:n_sesuisho7-062

醒睡笑 巻7 謡

4 信長公へ熊野新宮方よりの使者寂静坊といふ参り・・・

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信長公1)へ、熊野新宮2)方よりの使者寂静坊(じやくじやうばう)といふ参り。御咄(おはなし)あるみぎり、連一3)出仕しけり。

「この座に新宮の使あり。何にても物語をせよ」と御諚(ごぢやう)あるに、追付けて連一、「さて、熊野に一らと申す在所の候ふや」。「いやなし」。「さては寂静は熊野の人にてはあるまじ。熊野にゐる者の、やがて隣の在所一らをさへ知り給はぬほどに」とつむる。「熊野のことは置きぬ。紀州一国に一らといふ所なし」と色4)をそこなひ争ふ時、「二人静5)に、『一栄一らくまのあたり6)』と候ふが異なことや」と申して、大笑ひになせり。

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一 信長公へ熊野新宮(くまのしんぐう)方よりの使者寂静(しやくじやう)
  坊といふ参り御咄ある砌(みきり)連一出仕しけり
  此座に新宮の使ありなににても物語を
  せよと御諚有に追付て連一さて熊野に
  一らと申在所の候やいやなしさては寂静
  はくまのの人にてはあるましくま野に
  ゐる者のやがて隣(となり)の在所一らをさへしり
  たまはぬほとにとつむるくま野の事はをき/n7-35l
  ぬ紀州(きしう)一国に一らといふ処なしと有をそ
  こなひあらそふ時二人静に一栄一らくま
  のあたりと候がいな事やと申て大笑(わらい)になせり/n7-36r
1)
織田信長
2)
熊野速玉大社
3)
杉原連一
4)
「色」は底本「有」。諸本により訂正。
5)
謡曲「二人静」。
6)
二人静「まことに一栄一落まのあたりなる浮世とて」。
text/sesuisho/n_sesuisho7-062.txt · 最終更新: 2022/08/15 16:43 by Satoshi Nakagawa