36　西陣といふは絹屋のあまたある所なるが・・・

校訂本文

西陣といふは絹屋(きぬや)のあまたある所なるが、一とせ黒船渡らず、糸高直(かうぢき)なるゆゑ、「手前不如意なれば、孝養(きやうやう)¹⁾の営みも調(ととの)へがたし。さるにより、まづしばしは月忌(ぐわつき)の僧衆(そうしゆう)もおはするな」と申し合へる時、

　　西陣にいかなる敵のあるやらむとき²⁾も上げけりはた³⁾も上げけり

一　西陣といふは絹屋のあまたある所なるか一
　　とせ黒舟(くろふね)わたらす糸高直なる故手前不如
　　意なれは孝粮(きやうやう)のいとなみも調かたしさるに
　　よりまつ暫(しはし)は月忌(くわつき)の僧衆(そうしう)もおはするなと申
　　あへる時
　　　西陣にいかなるてきのあるやらむ／n1-35r

　　　ときもあけけりはたもあけけり／n1-35l

¹⁾

「孝養は底本「孝粮」に「きやうやう」と読み仮名。読み仮名に従い改める。

²⁾

鬨・斎

³⁾

旗・機