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醒睡笑 巻5 上戸
21 寺僧二十人ばかりある寺を一堂請用の時住持触れをまはし・・・
校訂本文
寺僧二十人ばかりある寺を、一堂請用(いちだうしやうよう)の時、住持、触れをまはし、方丈に寄せ、「衆僧(しゆそう)皆上戸なり。明朝の座敷はれがまし。大器にてめいめいひかへば、こと見苦しからん。貧乏鬮(くぢ)を取らせ、せめて一人は下戸分にせんはいかん」。「もつとも」と同じ、長老の侍者(じしや)、鬮を取り当たれり。酒はただ二返なる1)条、始めより汁器と、衆議あひ約せり。
かの侍者、ふと汁の椀を取り上げけるが、「やれ、われは下戸分や」と肝をつぶし、盃をうつむけ、糸底にて受けざまに、長老の方を見ければ、目を見出ださるる。「あつ」と言うて、もとのごとく持ち直し、たぶたぶと受けたり。
帰山の後、叱らるる時、「私は兼日(けんじつ)の法度(はつと)のごとく小盃にと取り上げ候へば、御目もと違ひ候ふまま、『さては上戸なみに御許し候ふや』と存じて」。
翻刻
一 寺僧廿人ばかりある寺を一堂(たう)請用(しうよう)の時住 持触(ふれ)をまはし方丈によせ衆僧(しゆそう)皆上戸也 明朝のざしきはれかまし大器(き)にてめいめい ひかへば事見くるしからんびんほう鬮(くぢ)をとらせ せめて一人は下戸分にせんはいかん尤と同し 長老の侍者(じしや)鬮をとりあたれり酒は唯二返なう 条始より汁器(じやうき)と衆義(しゅき)相約(あいやく)せり彼侍者ふと 汁の椀を取上けるかやれ我れは下戸分やと/n5-48r
肝をつぶし盃をうつむけいとぞこにてうけ さまに長老のかたを見けれは目を見出さるる あつといふて本のごとくもちなをしたぶたぶ とうけたり帰山の後しからるる時私は兼(けん)日 の法度のことく小盃にと取上候へは御目もと 違候まま扨は上戸なみに御ゆるし候やと 存ぢて/n5-48l
1)
「なる」は底本「なう」。諸本により訂正。
text/sesuisho/n_sesuisho5-063.txt · 最終更新: 2022/03/12 22:11 by Satoshi Nakagawa