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醒睡笑 巻1 無智の僧
3 海辺の者山家に聟を持ち音信に蛸と辛螺と蛤蜊と三色を持たせやりたり・・・
校訂本文
海辺の者、山家に聟を持ち、音信(いんしん)に蛸(たこ)と辛螺(にし)と蛤蜊(はまぐり)と三色(みいろ)を持たせやりたり。
その文(ふみ)を読む者もなく、三色を見知りたるもなし。「文をば物知りの出家を頼みて聞けや」とて、わざと遠路を行きて見せければ、うちうなづきて言ふやう、「何も音信の物はないか」といふこそ、「三色まで候へども、その物をも見知らぬまま、これへ持ちて参りたり」と言へば、「一目見む」とて見れば、山賤(やまがつ)よりもなほ劣れり。されども口はかしこくて、文を広げ、「聟殿へ申す。娘の大切さに竜王のへのこ根こぎにして十ばかり、鬼のきくぶし三十ばかり、手ごろの礫(つぶて)百ばかり、三色ともに山海の珍物(ちんぶつ)」とぞ読みける。
この身の果ては何となるらむ
海士の屋の軒より高き貝の殻
翻刻
一 海辺の者山家に聟をもちいんしんに 蛸(たこ)と辛螺(にし)と蛤蜊(はまぐり)と三色をもたせやりた り其文をよむ者もなく三いろを見しりたる もなし文をは物しりの出家をたのみてきけや とてわさと遠路を行て見せけれはうちうな つきていふやうなにもいんしんの物はないかといふ/n1-61l
こそ三いろまて候へとも其物をも見しら ぬままこれへもちて参りたりといへは一目 みむとて見れは山賤(かつ)よりも猶おとれりさ れとも口はかしこくて文をひろけ聟殿へ 申むすめのたいせつさに龍王(りうわう)のへのこねこ きにして十はかり鬼のきくぶし三十斗 手ころのつぶて百はかり三いろともに山海の 珍物(ちんふつ)とそよみける 此みの果はなにとなるらむ/n1-62r
海士の屋の軒より高き貝のから/n1-62l
text/sesuisho/n_sesuisho1-128.txt · 最終更新: 2021/05/26 12:11 by Satoshi Nakagawa