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醒睡笑 巻6 推はちがうた
30 旅の僧しばらく人のもとに逗留せしがふと出でて行かんと思ひ立つ・・・
校訂本文
旅の僧、しばらく人のもとに逗留(とうりう)せしが、ふと出でて行かんと思ひ立つ。折節、宿の主、他行の刻なれば、借りて使ひゐたる金柄(きんつか)の小刀を、内の者にたしかに渡す。
主人帰るに、受け取りつる者、「小刀は件(くだん)の人取りて去(い)にしにや、無し」と言ふ。不審に思ひ、ここかしこ見回しぬる。傍らの柱に、かの僧の手跡あり。読めば歌なり。「小刀たしかに置く」といふ十の文字を、一首の歌に書き置きし。
ここにきしかかるうき世かたびの身にながき情をたのみてぞ行く1)
翻刻
一 旅の僧しはらく人のもとに逗留せしかふ斗出/n6-55r
ゆかんとおもひたつ折ふし宿の主他行の刻 なれはかりてつかひゐたる金柄の小刀を内の 者に慥わたす主人帰るに請取つる者小刀は 件の人とりていにしにやなしといふ不審 におもひここかしこ見まはしぬるかたはらの 柱に彼僧の手跡ありよめは哥なり小刀 慥をくといふ十の文字を一首の哥に書置し ここにきしかかるうき世かたひの身に なかき情をたのみてそゆく/n6-55l
1)
底本、読む順番を傍書。添付画像参照。下線部「こかたなた」+太字「しかにをく」で「小刀たしかに置く」となる。
text/sesuisho/n_sesuisho6-113.txt · 最終更新: 2022/05/30 23:43 by Satoshi Nakagawa