text:sesuisho:n_sesuisho7-034
醒睡笑 巻7 似合うたのぞみ
3 熊野へ参詣する人あり・・・
校訂本文
熊野へ参詣する人あり。岩の懸路(かけぢ)を手輿(たごし)とやらん、またあをだとやらんいふに、乗せてかかれたるが、谷の深きこと千尋(ちひろ)もあらんを見やり、「さても一足(ひとあし)踏み損うたらば、五体は微塵(みぢん)にならんものよ」と言ひけり。かの二人のかきた る者、「ここな人は、いろいろのくどきごとを言はるる。もし谷へ落したらば、今日の雇はれ賃を損にして取るまいまでに」。
熊野のついでに。奥州より名取の老女とかや、世に聞こえたる有徳(うとく)の婦人ありて、けはしき道をしのぎつつ、熊野へ年参りしけるが、ある時の詣でに、権現ぢきに告げさせ給ひし。
道遠しほども遥かに隔たれり思ひおこせよわれも忘れじ
翻刻
一 熊野へ参詣する人あり岩(いは)のかけちをたごし とやらん又あをたとやらんいふにのせてかかれ たるか谷(たに)のふかき事千ひろもあらんを見や りさても一足ふみそこなふたらは五体(こたい)は微(み) 塵(ぢん)にならん物よといひけり彼二人のかきた る者ここな人はいろいろのくどきことをい はるる若谷へおとしたらはけふのやとは れちんをそんにしてとるまいまでに熊野(くまの) の次(つい)てに奥州よりなとりの老女とかや世に/n7-21r
聞えたる有徳の婦人ありてけはしき道 をしのぎつつ熊野へ年参しけるがある時 のまうでに権現(こんけん)直(ぢき)に告させ給ひし 道遠し程もはるかにへたたれり おもひをこせよ我もわすれし/n7-21l
text/sesuisho/n_sesuisho7-034.txt · 最終更新: 2022/07/17 11:22 by Satoshi Nakagawa