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text:sesuisho:n_sesuisho3-095

醒睡笑 巻3 自堕落

19 ある檀那寺に参りしばらく雑談し立ちざまに・・・

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ある檀那、寺に参り、しばらく雑談(ざうたん)し、立ちざまに、「明日、無菜(ぶさい)の斎(とき)を申さん」と言へば、庫裏(くり)から妙(めう)1)が楚忽(そこつ)に出でて言ひける、「幸ひのことや。明日(あす)はお坊様の精進の日じや」。

僧の方より旦那を呼ばんに言ふべき仁義ではおりないか2)

『仁王経』に、「比丘地立(びくちりふ)、白衣高座(びやくえかうざ)」。 白衣は俗なり。

  世の末は墨の衣(ころも)も武士(もののふ)の奴(やつこ)となれる法(のり)ぞ悲しき

中峰和尚修行の記に、「身着法衣、思染俗塵(身には法衣を着れども、思は俗塵に染めり)」

 墨染の衣に似たる心かと問ふ人あらばいかが答へん

 遁世(とんせい)の遁の一字を書き替へて昔は遁(のが)れ今は貪(むさぼ)る

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一 或檀那(たんな)寺に参りしばらく雑談(ざうたん)し
  たちさまに明日無菜の斎(とき)を申さんとい
  へは庫裏(くり)からめうか楚忽(そこつ)に出ていひける幸の
  事やあすはお坊様の精進の日しや
    僧の方より旦那をよはんにいふべき仁義ではおりないか
  仁王経に比丘(ひく)地立(ちりう)白衣(びやくえ)高座(かうざ) 白衣は俗也
   世の末は墨の衣も武士の
    奴(やつこ)となれる法そかなしき/n3-44l
  中峯和尚修行ノ記ニ 身着法衣思染俗塵
   墨染の衣に似たる心かと
    とふ人あらばいかがこたへん
   遁世(とんせい)の遁(とん)の一字を書かへて
    むかしは遁(のか)れ今はむさぼる/n3-45r
1)
僧の妻。
2)
底本、この文、小書きで数字下げ。
text/sesuisho/n_sesuisho3-095.txt · 最終更新: 2021/11/03 17:24 by Satoshi Nakagawa