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形ことに痩せ黒みてわたらせ給ふお大名ありしが、近習(きんじゆ)の侍に向かはせ給ひ、「予が顔が猿に似たと、人みな言ふと聞いたが、まことか、嘘か」。臣、承りて、「これは勿体(もつたい)なき御諚(ごぢやう)に候ふ。誰やの人、さやうのことをば申し上げけるぞ。世上(せじやう)には、ただ猿が顔が殿様に似たとこそ申し候へ」。大名、聞き給ひて、「ゆゆしくも申したり。さこそは侍らんず」とて、いささかも憤りなかりしは、下劣の申し習はす、「大名は大耳なれ」や。

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一　かたちことにやせくろみてわたらせたまふお
　　大名有しか近習の侍にむかはせたまひ
　　予かかほがさるににたと人みないふときひた
　　かまことかうそか臣うけたまはりてこれは勿体
　　なき御諚に候たれやの人さやうの事をは
　　申あけけるそ世上にはたた猿かかほか殿様に／n2-17l

　　にたとこそ申候へ大名聞給ひてゆゆしくも
　　申たりさこそは侍らんすとていささかも
　　憤なかりしは下劣の申ならはす大名は
　　大耳なれや／n2-18r