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醒睡笑 巻6 児の噂
9 叡山の児も三井寺の児も里に下りゐられけるがおりおり出で会ひ他事なかりし・・・
校訂本文
叡山1)の児も三井寺2)の児も、里に下りゐられけるが、おりおり出で会ひ他事なかりし。山に住むは三井をなつかしく、三井に住むは山をゆかしく思ひゐたりしが、ある時、互ひに懺悔物語(さんげものがたり)するは、「山は、朝一合半、夕一合半の下行(けぎやう)なり」と。「三井は、朝一合、昼一合、夕一合なれば、同じことぞや」と言ふに、叡山の児、三井のを、「うらやまし」と言ふ。「いかなれば」。「汁と湯とが徳になるほどに」。
汁のついでに。䱦3)といふ魚(うを)を捕るには、必ずその時節約束あり。夜そと雨降りて、明け方に小風の吹きたる朝、たくさんにあがるものといふ。夢庵4)の堺に御入りありつる時、浜辺に出入りする者あり。折をたがへず参らせける。かくありつるに遅なはれば、詠みてつかはし給ふ。
夜の雨今朝は北風ふくたうの汁のおとづれせぬぞあやしき
翻刻
一 叡山の児も三井寺の児も里にくたりゐら れけるかおりおり出あひ他事なかりし山に すむは三井をなつかしく三井にすむは山をゆ かしく思ひゐたりしかある時たかひにさんけ 物語するは山は朝一合半夕一合半のけきやう也と/n6-7r
三井は朝一合ひる一合夕一合なれは同し事 そやといふに叡山の児三井のをうら山しと いふいかなれは汁と湯とが徳になるほどに 汁のつゐてに䱦といふうををとるには必其時 節約束あり夜そと雨ふりて明かたに小風の 吹たる朝たくさんにあかる物といふ夢庵の境に 御入ありつる時浜辺に出入する者あり折をたがへ す参らせけるかくありつるにをそなはれば 読てつかはし給ふ/n6-7l
夜の雨けさは北風ふくたうの 汁のをとつれせぬそあやしき/n6-8r
text/sesuisho/n_sesuisho6-009.txt · 最終更新: 2022/04/21 10:58 by Satoshi Nakagawa