9　始めて奉公に出る侍のありしが奏者する人に御名字はと問はれ・・・

校訂本文

始めて奉公に出る侍のありしが、奏者(そうしや)する人に、「御名字は」と問はれ、「磯貝(いそがい)」と答う。「磯は」と言へば返事なし。「さだめて磯辺の磯なるべし。『がい』は」と尋ぬれば、「よからふやうに」と。「しりがい¹⁾がよからう」と言ふ。「何、せめてむながひ²⁾のがいにしてくだされよ」と。

されば時頼禅門³⁾も

　　読み書きのことさらいるは弓矢とり急度注進(きつとちうしん)急度回文(きつとくわいぶん)

一　始て奉公(ほうこう)に出る侍のありしか奏者する人に
　　御名字はととはれ磯貝(いそかい)とことふ磯はといへは
　　返事なしさためて磯辺の磯なるべしがいは／n3-14l

　　とたつぬれはよからふやうにとしりがいがよから
　　ふといふ何せめてむなかひのがいにしてくたされ
　　よとされば時頼(ときより)禅門も
　　　よみかきのことさらいるは弓矢とり
　　　　急度注進急度回文／n3-15r

¹⁾

鞦

²⁾

胸懸

³⁾

北条時頼