text:sesuisho:n_sesuisho6-105
醒睡笑 巻6 推はちがうた
22 若輩なる僧若衆とふたり寝ねたるに僧目覚めて・・・
校訂本文
若輩なる僧、若衆とふたり寝(い)ねたるに、僧目覚めて、わが腰のまはり冷や冷やとする。さぐりみれば、何やらん、濡れたる物なり。不思議に思ひ、若衆の腰のまはりへ、そとやりて置く。
若衆、また目覚め、「腰のまはり冷やめくは奇特(きどく)や」と、かの物をそと取り、坊主の腰のまはりへやりたり。坊主、取りてすまぬものにおもひ、そつと置きて雪隠1)へ持ち行き捨ててけり。
かくて夜も明け、下帯を尋ぬるに無し。しづかに案じみれば、昨日の晩、風呂に入り、たづなをすすき絞り、袂(たもと)に入れ持ち忘れたるを、何ぞと思ひ気づかひし、あげくに捨てけるをかしさよ。
あちこちやりたる互ひの心をば、何と思し召すや2)。
玄旨法印公3)、南都よりのぼらせ給ふに、山城の井手の玉水にて、人、下帯を垣にかけ置き、水をあびける時、
山城の井手の下帯手にはづし洗ふへのこの玉川4)の水
翻刻
一 若輩なる僧若衆とふたりいねたるに僧め 覚て我腰のまはりひやひやとするさぐりみれ はなにやらんぬれたる物なり不思儀におもひ若 衆の腰のまはりへそとやりてをく若衆又目 さめ腰のまはりひやめくはきとくやと彼物を そととり坊主の腰のまはりへやりたり坊主とり/n6-51r
てすまぬ物におもひ率とおきて雪院へも ちゆきすててけりかくて夜もあけ下帯をた つぬるになししつかに案しみれは昨日の晩風 呂に入たつなをすすきしほり袂に入もち忘れ たるをなにそとおもひ気遣しあけくにすてけ るおかしさよ あちこちやりたる互の心をはなにとおほしめすや 玄旨法印公南都よりのほらせ給ふに山城の 井手の玉水にて人した帯を垣にかけをき水 をあびける時/n6-51l
山城の井手の下帯手にはつし あらふへのこの玉河の水/n6-52r
text/sesuisho/n_sesuisho6-105.txt · 最終更新: 2022/05/28 18:01 by Satoshi Nakagawa