ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:sesuisho:n_sesuisho7-079

醒睡笑 巻7 謡

21 田舎人の上洛し宿主に向かひ某が京のぼり一世の始めに候ふ・・・

校訂本文

<<PREV 『醒睡笑』TOP NEXT>>

田舎人の上洛し、宿主に向かひ、「某(それがし)が京のぼり、一世の始めに候ふ。いづくを歩(あり)き、何を見ても合点(がつてん)ゆかず候ふまま、いそがはしくとも連れて歩(あり)かれ、ところどころを教へてたべ。故郷に帰り土産にせん」など、ねんごろに語らひ出づる。

まづ四条の橋を通るに、「これこそ謡(うたひ)に謡ふ四条の橋、あれに見ゆるは五条の橋の上候ふよ」。「さても嬉し。熊野(ゆや)1)にある名所を見たることや。してして、その老若男女(らうにやくなんによ)といふ所は2)、やがてこのあたりにては候はぬか」。京の案内者も一円不文字(いちゑんふもんじ)にありければ、理がすまいで返事するやう、「その老若男女は、三年(みとせ)あとの大洪水にみな流れた」と。

  渡りえてうき世の橋をながむればさても危ふく過ぎしものかな

<<PREV 『醒睡笑』TOP NEXT>>

翻刻

一 田舎人の上洛し宿主にむかひ某(それがし)が京のぼり
  一世の始に候いづくをありきなにを
  見ても合点(かつてん)ゆかず候ままいそかはしくともつ
  れてありかれ処々ををしへてたべ故郷(きやう)に/n7-41l
  かへりみやけにせんなど懇にかたらひ出るま
  つ四条の橋(はし)をとほるに是こそ謡にうたふ
  四条の橋あれに見ゆるは五条の橋の上候よ
  さてもうれしゆやにあるめいしよを見たる
  事やしてして其老若男女(らうにやくなんによ)といふ処はやが
  てこのあたりにては候はぬか京の案内者(あんないじや)も一
  円不文字(もんじ)にありければ理がすまいで返事
  するやう其老若男女は三年あとの大
  洪水(かうずい)にみななかれたと/n7-42r
   渡り得てうき世の橋を詠れは
   さてもあやうく過し物かな/n7-42l
1)
謡曲「熊野」
2)
熊野「四条五条の橋の上。老若男女貴賎都鄙。」の老若男女を地名だと思った。
text/sesuisho/n_sesuisho7-079.txt · 最終更新: 2022/08/16 12:52 by Satoshi Nakagawa