text:sesuisho:n_sesuisho4-010
醒睡笑 巻4 聞こえた批判
10 京にて猫を失なへる者あり・・・
校訂本文
京にて、猫を失なへる者あり。厨子小路(づしせうぢ)にいたり、身をやつし尋ねしが、ある所にて不思議に見付け、「これはわが猫」と言ふ。亭主出でて、「そちがといふ証拠は」。また、「なんぢがといふ証拠は」。惜しく欲しくの争ひなれば、是非つひに分かたず。
板倉伊賀守1)、是非の相手二人対座せさせ、件(くだん)の猫を座敷の中に置き、「もとの主も、今の主も、手に鰹(かつお)を一節づつ持ちて呼べ。生まれてより育て慣れたる方へこそ行くべけれ」と。
案のごとく、はじめ失なひし者の膝の上へ、鳴く鳴く行きしことよ。
翻刻
一 京にて猫をうしなへる者あり厨子(づし)小路に いたり身をやつし尋しがある所にて不思 儀に見付これは我猫といふ亭主出てそ ちがといふ証拠(せうこ)は又汝かといふ証拠はをしく ほしくのあらそひなれは是非(ぜひ)終(つゐ)にわかたす 板倉伊賀守是非のあひて二人対座せさ せ件の猫を座敷の中にをきもとの主も 今の主も手に鰹(かつほ)を一ふしつつもちて/n4-13l
よべむまれてよりそたてなれたる方へこそ行 へけれとあんのごとく始うしなひし者の 膝(ひざ)の上へなくなく行し事よ/n4-14r
1)
板倉勝重
text/sesuisho/n_sesuisho4-010.txt · 最終更新: 2021/11/16 23:18 by Satoshi Nakagawa