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text:sesuisho:n_sesuisho5-043l

醒睡笑 巻5 上戸

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俗云はく、「僧家に般若湯と号して専ら用ゐるはこれ何事ぞ。曇橘州1)は蜀の英なり。性酒を嗜む。諸方2)これを酒曇と謂ふ。或は芭蕉の泉禅師3)は、杖を以て大酒瓢を荷ひ、山中に往来す。馬祖4)・黄檗5)皆酒を愛して一点の執気無し。馬子才は、『請君酔我一斗酒。紅光入面春風和。(請ふ君我を一斗の酒に酔はしめよ。紅光面に入りて春風和す。)』と戯れ、蘇氏6)も、『酒以紅為貴。(酒は紅なるを以て貴しと為す。)』と誉めたれば、老年の枯槁栄衛の身、憎まれても飲むべき物よ。功名富貴は到頭夢の如し。物によつて懐を興ず。何ぞ清風名月に対し、酒を飲みて自ら和するに如(し)かん」。

僧云はく、「人として遠慮無ければ必ず近く憂有らん。歓楽極まつて哀情多し7)。諺に『今の甘蔗(あまづら)は後の鼻蔗なり』と。涅槃経に云はく、『酒為不善諸悪根本。若能除断即遠衆罪8)。酒は不善諸悪の根本と為る。若し能く除断せば則ち衆罪に遠ざかる。)』云々。また正法念処経に云はく、『若人以酒与戒人、若寂静人、寂滅心人、禅定楽者、濁乱彼人、堕叫喚獄。(若し人酒を以て戒人、若しくは寂静人、寂滅心人、禅定楽者に与へ、彼人を濁乱せしむれば、叫喚獄に堕つ。)』」と。

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火智人秋鹿泣入山無作空死ハ後必有悔俗云
僧家ニ号シテ般若湯ト専用ルハ之何事ソ曇橘州ハ蜀英也性
嗜酒ヲ詣方謂之酒曇或芭蕉ノ泉禅師以杖荷大酒
瓢往来ス山中ニ馬祖黄壁皆愛酒而無一点ノ執気馬
子才ハ請君酔メヨ我ヲ一斗ノ酒ニ紅光入テ面ニ春風和スト戯レ
蘇氏モ酒ハ以紅ナルヲ為ト貴ト誉タレハ老年ノ枯槁栄衛ノ之身憎ニクマレテモ
可飲物ヨ功名冨貴到頭如夢因テ物ニ興ス懐ヲ何ソ如ン対清風
名月ニ飲テ酒自和ニ僧云人トシテ無遠慮必有近憂歓楽極/n5-32l
兮哀晴多シ諺ニ今ノ甘蔗アマツラハ後鼻蔗也涅槃経云酒為不
善諸悪ノ根本ト若能除新即ハ遠衆罪ニ云々又正法念処
経云若人以酒与戒人若寂静人寂滅心人禅定楽者ニ
濁乱メレハ彼人ヲ堕叫喚獄俗云随衆生欲種々説法ナレハ不可/n5-33r
1)
宝曇
2)
「諸方」は底本「詣方」。
3)
大道谷泉
4)
馬祖道一
5)
黄檗希運。底本「黄壁」
6)
蘇軾
7)
漢武帝「秋風辞」。「情」は底本「晴」
8)
「断」は底本「新」。
text/sesuisho/n_sesuisho5-043l.txt · 最終更新: 2022/10/22 15:18 by Satoshi Nakagawa