text:sesuisho:n_sesuisho3-078
目次
醒睡笑 巻3 自堕落
2 世度卑なる出家あり・・・
校訂本文
世度卑(せとひ)なる出家あり。一人の弟子に言ふ、「明日は吉野の花見に行かん。先途ほど遠し。暁より起きて出立を用意せよ」。「心得たり」とつとに起き、酒飯ととのへ、戸を叩きければ、坊主、「いまだ夜ぶかなり」とて起きず。
さるほどに、つねづね弟子に隠し、寝(い)ねざまには焼味噌1)と号して、鶏の玉子をととのへ、肴に用ゐて酒を飲むことを、心に無心に思ひゐけるが、その時こらへかね、「夜が深いか浅いかは知らぬ。焼味噌が父(てて)はもはや三番鳴いた」。
翻刻
一 世度卑(せとひ)なる出家あり一人の弟子にいふ/n3-36l
明日は吉野の花見にゆかん先途程遠し 暁よりおきて出立を用意せよ心得たりと 夙におき酒飯ととのへ戸を拍けれは坊主 いまた夜ふか也とておきすさる程につね つね弟子にかくしいねさまには焼味僧と 号して鶏(にはとり)の玉子をととのへ肴に用て酒 をのむ事を心に無心に思ひゐけるがその時 こらへかね夜かふかいかあさいかはしらぬやき みそかててはもはや三番ないた/n3-37r
1)
底本「焼味僧」
text/sesuisho/n_sesuisho3-078.txt · 最終更新: 2021/10/24 12:07 by Satoshi Nakagawa