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text:sesuisho:n_sesuisho4-043

醒睡笑 巻4 そでない合点

1 何のとりえもなき者あり・・・

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何のとりえもなき者あり。ほど近(ちか)にさすがなる侍の住まれけるへ、明け暮れに出入(しゆつにふ)する。武蔵鐙(むさしあぶみ)の下の句1)の心や、問ふもうるさき様なりしかば、小姓に言ひ教へ、「件(くだん)の男来たりたらば、『長数珠(ながじゆず)』と言へ」となり。

案のごとく暮れ方に来たれり。小姓出でて、「殿のいつも噂(うはさ)を仰せある」。「何とや」と尋ねければ、「そなたをば長数珠ぢや」とは、「くる2)にくたびれた」といふことなるを、かの男はさかさまに得心し、「さうであらう。『くるが遅い』といふことの」と。

  人の上ゆふつけ鳥のしだり尾の長物語心あるべし

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    曽而那以合点
一 何のとりえもなき者ありほとちかにさすか
  なる侍のすまれけるへ明暮(あけくれ)に出入(しゆつにう)する
  武蔵鐙(むさしあぶみ)の下の句の心やとふもうるさき様な
  りしかは小性にいひをしへ件の男来りたらは
  長数珠(ながじゆず)といへとなり案(あん)のことく暮(くれ)かたに来
  れり小性出て殿のいつも噂(うはさ)を仰あるな
  にとやと尋けれはそなたをは長数珠しや
  とはくるにくたひれたといふ事なるを彼男/n4-35l
  はさか様に得心(とくしん)しさうてあらふくるがをそ
  いといふ事のと
   人の上ゆふつけ鳥のしたり尾の
   長物かたりこころあるへし/n4-36r
1)
武蔵鐙さすがにかけて頼むにはとはぬもつらしとふもうるさし(『伊勢物語』)の「とはぬもつらしとふもうるさし」
2)
繰る・来る
text/sesuisho/n_sesuisho4-043.txt · 最終更新: 2021/12/04 11:50 by Satoshi Nakagawa