text:sesuisho:n_sesuisho2-075
醒睡笑 巻2 吝太郎(しはたらう)
5 三河の国に宗恵といふて有徳なる者あり・・・
校訂本文
三河の国に、宗恵(そうゑ)というて有徳(うとく)なる者あり。生涯の間、いかなるわずらひあれども、つひに薬を一度飲まず。
年至極(しごく)し、すでにいまはの時、知音(ちいん)の人、竹田の牛黄円(ごわうゑん)を合はせ、「与へん」と言ふに、少しも口を開かず、歯をくひしばりゐたる時に、こざかしく、「この牛黄円、銭の出る薬にてなし。ただぞ、ただぞ」と言ふて聞かせたれば、口をがばと開き飲みけりとなん。
かの国のざれことばに1)、「宗恵が牛黄円でただじや」と言ひけるは、これゆゑぞや。
翻刻
一 参河の国に宗恵といふて有徳なる者あり 生涯のあひだいかなる煩あれともつゐに薬を 一度のます年至極しすてにいまは/n2-40r
の時知音の人竹田の牛黄円をあはせ あたへんといふにすこしも口をあかすはをくひ しばりゐたる時にこさかしく此牛黄円銭 の出る薬にてなしただぞただぞといふて きかせたれはくちをかはとあきのみけりと なん彼国のされことばも宗恵が牛黄円 てたたじやといひけるはこれ故そや/n2-40l
1)
「に」は底本「も」。諸本により訂正。
text/sesuisho/n_sesuisho2-075.txt · 最終更新: 2021/08/18 15:44 by Satoshi Nakagawa