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醒睡笑 巻5 人はそだち
30 ある人研屋に行きて遊びゐたれば亭主彦二郎彦二郎と呼ぶ・・・
校訂本文
ある人、研屋(とぎや)に行きて遊びゐたれば、亭主、「彦二郎、彦二郎」と呼ぶ。「おつ」と言うて出でたるに向かひ、「おもひきや、おもひきや」と言ふ。「心得候ふ」とて、小さき砥石を一つ持ちて来たる。「こは珍しの挨拶や」と感じ、その意趣を尋ぬれば、
思ひきや榻(しぢ)の端書き書きつめて百夜(ももよ)も同じ丸寝(まろね)せんとは
とも詠めり。
その言葉の習ひを、はしばし語りし時、聞きたる人おもしろく覚え、内に帰り、客あるみぎり、小刀を持ちゐて、常に言ひ教へたる小者、「竹若よ、おもひきや、おもひきや」と言ひしかば、「おつ」と答へ、横槌(よこづち)を一つ持ちて出でたり。「これは」と問ふに、「このほかに何も重い木はおりない」と。
翻刻
一 ある人ときやに行てあそひゐたれは亭主 彦二ら彦二らとよふおつといふて出たるにむかひ おもひきやおもひきやといふ心へ候とてちいさき砥(といし)を/n5-65l
一つもちてきたるこはめつらしのあいさつやと かんし其いしゆを尋ぬれは おもひきやしちのはしかきかきつめて 百夜もおなしまろねせんとは ともよめりその言葉のならいをはしはしか たりし時聞たる人おもしろくおぼえ内に かへり客あるみぎり小刀をもちゐてつねに いひをしへたる小者竹若よおもひきやおもひきやと いひしかばおつとこたへよこづちを一つもちて/n5-66r
出たりこれはととふに此外になにもおもひ木 はおりないと/n5-66l
text/sesuisho/n_sesuisho5-097.txt · 最終更新: 2022/03/31 18:42 by Satoshi Nakagawa