text:sesuisho:n_sesuisho1-095
醒睡笑 巻1 ふはとのる
8 奉公人の果てとおぼしきが宿を借り四方山のことを語り尽しけり・・・
校訂本文
奉公人の果てとおぼしきが宿を借り、四方山のことを語り尽しけり。亭(てい)讃めて、「いかさまただの人とは見え候はず。もはや休み給へ。夜着を参らせんや」と言ふ。「いや、いかほどの野陣・山陣をしつけ、少々寒きことをば知らず。無用」と言うて、着のまま寝(い)ねけるが、夜更くるにしたがひ、ひた物寒し。
時に、「亭主、亭主、これの鼠には、足を洗はせたか」と問ふ。「いや、さやうのことはなし」と答ふ。「それならば筵(むしろ)を一・二枚着せられよ。鼠が着た物を踏まば、むさからうずに」と。
身一つは山の奥にもありぬべしすまぬ心ぞ置き所なき
翻刻
一 奉公人のはてとおほしきか宿をかり四方山 の事をかたりつくしけり亭ほめていかさ またたの人とは見え候はすもはや休給へ 夜着をまいらせんやといふいやいかほとの/n1-43r
野陣山陣をしつけせうせうさむき事 をはしらす無用といふてきのままいねけ るか夜ふくるにしたかひひた物さむし時 に亭主亭主是の鼠には足をあらはせたか ととふいやさやうの事はなしとこたふそれなら はむしろを一二枚きせられよ鼠がきた物 をふまはむさからうずにと 身ひとつは山の奥にもありぬへし すまぬこころそをき所なき/n1-43l
text/sesuisho/n_sesuisho1-095.txt · 最終更新: 2021/05/09 14:26 by Satoshi Nakagawa