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text:sesuisho:n_sesuisho5-070

醒睡笑 巻5 人はそだち

3 山中に殿あり国なかにてさもとらしき武家より嫁を呼ぶに・・・

校訂本文

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山中に殿(との)あり。国なかにて、さもとらしき武家より嫁を呼ぶに、お局の、中居の、おはしたの、など、ありありと供し、祝言のこと済めり。

二日・三日経てども、つひに行水とも風呂とも沙汰せず。ものまかなへる刑部左衛門といふを呼び出だし、お局、「ちと、お洗足(せんそく)をお出だしあれ」と申されしかば、刑部、「かしこまり候ふ。そのよし申し聞けん」とて座を立ち、年寄衆に、「皆寄られよ。局より仰せられ分(ぶん)候」と触れたり。

「何事ぞ」と集まりたる座にて、「別(べち)の事になし。『お洗足』といふ物を出せとなり。この返事いかがせん」と、談合さまざまなりしあげくに、一の大人(おとな)言ひけるやう、「『一乱1)に失せた』と申されよ」。「この儀、天下一の思案」と言つて、局へ「お洗足を出だせと候へども、一乱に失せて御座ない」と。局、聞きもあへず、「ああ軽忽(きやうこつ)や」と申されけり。刑部、「軽忽2)」といふも聞き知らねば、「またむつかしきことや」と思ひ、「いや、けうこつもおせんぞくも、一度に失せておりない」と。

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一 山中に殿あり国なかにてさもとらしき武(ぶ)
  家(け)より嫁(よめ)をよぶにおつぼねの中居のおはした
  のなどありありとともし祝言の事すめり二日
  三日たてども終(つゐ)に行水(ぎやうすい)とも風呂(ふろ)とも沙汰(さた)せ
  ず物まかなへる刑部(げうぶ)左衛門といふをよび出し御
  つほねちと御洗足(せんそく)を御出しあれと申され
  しかば刑部かしこまり候其由申きけんと
  て座(ざ)を立年寄衆に皆よられよつほねより
  おほせられ分(ぶん)候とふれたり何事ぞとあつまり/n5-53r
  たる座にて別(べち)の事になしお洗足といふ
  物を出せとなり此返事いかかせんと談合さま
  さまなりしあげくに一のおとないひ
  けるやう一乱(らん)にうせたと申されよ此義天
  下一の思案(しあん)といつてつほねへ御洗足を出
  せと候へとも一乱にうせて御座ないとつぼね
  ききもあへすああけうこつやと申されけり刑部
  けつこつといふも聞しらねば又むつかしき事
  やと思ひいやけうこつもおせんそくも一度に/n5-53l
  うせておりないと/n5-54r
1)
戦争
2)
「軽忽」は底本「けつこつ」。諸本により訂正。
text/sesuisho/n_sesuisho5-070.txt · 最終更新: 2022/03/17 13:13 by Satoshi Nakagawa