ユーザ用ツール

サイト用ツール


text:sesuisho:n_sesuisho2-025

醒睡笑 巻2 貴人の行跡

5 太閤の御時二徳といふ者別して御気に入りたり・・・

校訂本文

<<PREV 『醒睡笑』TOP NEXT>>

太閤1)の御時、二徳といふ者、別して御気に入りたり。ある朝、「生鶴の汁を食はせよ」とあれば、「愛宕2)精進をいたす。下されまじき」と申し上ぐる。「おのれ我執(がしゆつ)な。何事を祈る」と。「私はただ太閤様の御宿願に候ふ」。「何事を祈るぞ」。「臆病にならせらるるやうに守らせられよ」と。「臆病でよからんことは」。「されば、あまり命知らずに、鉄砲の前(さき)へもかまはせ給はねば、もし当たりて果てさせられては、私は何とならうと存じ候て」と申し上げれば、「さもあらん」との御気色なりし。

  慈悲の目に憎しと思ふことはなし咎(とが)あるはなほあはれなりけり

ともあれば、天下の主に似合ひたりとや申さん。

<<PREV 『醒睡笑』TOP NEXT>>

翻刻

一 太閤の御時二徳といふ者別して御気に入
  たりある朝生鶴の汁をくはせよとあれは
  愛岩精進をいたす下されましきと申/n2-15r
  上るをのれかしゆつな何事をいのると私は
  たた太閤様の御宿願に候何事をいのるそ
  臆病にならせらるるやうにまもらせられ
  よと臆病でよからん事はされはあまり
  命しらずに鉄砲のさきへもかまはせ給はねは
  若あたりてはてさせられては私はなにと
  ならふと存候てと申上けれはさもあらん
  との御気色なりし
   慈悲の目ににくしとおもふことはなし/n2-15l
   とかあるは猶あはれなりけり
  ともあれは天下の主に似合たりとや申
  さん/n2-16r
1)
豊臣秀吉
2)
愛宕(あたご)神社。「愛宕」は底本「愛岩」。諸本により訂正。
text/sesuisho/n_sesuisho2-025.txt · 最終更新: 2021/07/01 12:40 by Satoshi Nakagawa