text:sesuisho:n_sesuisho5-036
醒睡笑 巻5 婲心
36 深草に薄墨の桜とも墨染の桜ともいふは・・・
校訂本文
深草に薄墨の桜とも墨染の桜ともいふは、児あり、手習ひ、硯の水に白き桜の散り落ちて、墨に染まりければ、
世の中を花も憂しとや思ふらん白き姿を墨染めにして
と、この歌詠みて、児、死にけり。
明けの年の亡き日にあたり、師の坊主、
去年(こぞ)の今日花ゆゑ失せし児のためいま打ち鳴らす鐘の一声
と詠じ、霊前に供へければ、すなはち返歌あり。
花ゆゑに問はるることのうれしさよ苔の下にも春は来にけり
翻刻
一 深草に薄墨(うすずみ)の桜共墨染桜ともゆふは 児あり手習硯の水に白き桜の散落て 墨にそまりけれは 世中を花もうしとや思らん 白きすかたを墨染にして/n5-19l
と此哥読て児死にけり明の年のなき日に あたり師の坊主 去年のけふ花ゆへうせし児のため いまうちならす鐘の一声 と詠し霊前(れいせん)に供(そなへ)けれは即返哥あり 花ゆへにとはるる事のうれしさよ 苔の下にも春は来(き)にけり/n5-20r
text/sesuisho/n_sesuisho5-036.txt · 最終更新: 2022/03/02 11:58 by Satoshi Nakagawa