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醒睡笑 巻1 無智の僧

6 博奕に打ち負け詮方なき者冬の暮れ髪を剃りて法師となり・・・

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博奕(ばくち)に打ち負け詮方(せんかた)なき者、冬の暮れ髪を剃りて法師となり、法華宗の寺に行き、「座敷の掃除をもつかまつり候はん」といふ時、「経をば覚えたりや」と問はれ、「なかなかのこと」と答ふ。「さらばまづ置きてもみよ」とありけり。

その晩景(ばんけい)、檀那のもとより使者来たり。「明日は親の年忌(ねんき)なるでう、僧衆十人にて一部経を勤め給へ」となり。かの新し坊主、終夜(よもすがら)工夫するに、経を読むべきやうなし。「われ、若き時、薬屋に奉公し、薬種の名を覚えたり。これにて筈(はづ)を合はせん」と思ひ、すでに妙法蓮華経と始まりける時、そのままかの人付くる。

「桔梗(ききやう)・人参(にんじん)・続断(ぞくだん)・白朮(びやくじゆつ)・干姜(かんきよう)・木香(もつかう)・白芷(びやくし)・黄連(わうれん)」と言ひけるを、薬屋の亭主聴聞して、「あらありがたたや。われわれが売り買ふ薬種は、みな法華経の肝文(かんもん)にてあるよな」と、かの坊をひたもの拝みしも。

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一 博奕(ばくち)にうちまけ詮方(せんかた)なき者冬の暮(くれ)髪(かみ)を
  そりて法師となり法華宗の寺に行座(さ)
  敷(しき)の掃除(さうし)をも仕候はんといふ時経をはおほ
  えたりやととはれ中々の事とこたふさらは
  まつをきても見よとありけり其(その)晩景(はんけい)檀那(たんな)
  のもとより使者来り明日は親(おや)の年忌(ねんき)
  なる条僧衆十人にて一部経をつとめ給へと
  なり彼あたらし坊主終夜(よもすから)工夫するに経を/n1-64r
  よむへきやうなし我わかき時薬屋に奉公し
  薬種の名をおほえたりこれにて筈を
  あはせんとおもひ既に妙法蓮花経と始り
  ける時その儘彼人つくる桔梗(ききやう)人参(にんじん)続断(ぞくだん)
  白朮(びやくじゆつ)干姜(かんきやう)木香(もつかう)白芷(びやくし)黄連(わうれん)といひけるを薬屋
  の亭主聴聞(はんもん)してあら有かたやわれわれかう
  りかふ薬種はみな法花経の肝文にてある
  よなと彼坊をひた物おかみしも/n1-64l
text/sesuisho/n_sesuisho1-131.txt · 最終更新: 2021/11/03 16:43 by Satoshi Nakagawa