text:sesuisho:n_sesuisho5-099
醒睡笑 巻5 人はそだち
32 腰元に使はるる幼きがあやまちに硯箱を踏み割りたり・・・
校訂本文
腰元に使はるる幼きが、あやまちに硯箱を踏み割りたり。夫(おつと)のきつく叱らるる時、主(あるじ)出でて、「やさしや、硯箱なればぞ、ふみかいたれ1)」とありしを、その座に聞きたる男、「かかる華奢(きやしや)なることやあらん」と、わが妻に語る。「いつにても、それほどの言葉の縁はあらんものを」と、軽々(かろがろ)しげに言ひつるが、わざとにてはなくて、天然の怪我に、わが子、硯箱を踏み割りてけり。父、にらみける時、女房、「やさしや、硯箱なりやこそ、ふんぎやあたれ」と。
翻刻
一 腰(こし)もとにつかはるるおさなきがあやまちに硯箱 をふみわりたりおつとのきつくしからるるとき あるし出てやさしや硯箱なればぞふみ かいたれとありしを其座にききたるおとこ/n5-67r
かかる花奢なる事やあらんとわか妻にかたる いつにてもそれほどのことばのえんはあらん 物をとかろかろしけにいひつるがわざとにては なくて天然(てんねん)のけがに我か子硯箱をふみわり てけり父にらみける時女房やさしや硯箱 なりやこそふんぎやあたれと/n5-67l
1)
踏み欠いたれ・文書たれ
text/sesuisho/n_sesuisho5-099.txt · 最終更新: 2022/03/31 21:14 by Satoshi Nakagawa