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text:sesuisho:n_sesuisho1-135

醒睡笑 巻1 祝ひ過ぎるも異なもの

3 ある女房のもとに使はるる下衆の名を福といふありき・・・

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ある女房のもとに使はるる下衆(げす)の名を福といふありき。大歳(おほとし)の夕べ、下衆に向ひ、「そちは宵から宿へ行きて休み、明日はとく起き来たり門を叩け」と暇をやりぬ。

夜も更け過ぎて、五更(ごかう)に及べども来たらず。されども門を叩く音せり。「すはや」と思ひ、「誰(たれ)ぞ」と言ふに返事なし。あまりにたへかねて、「福かやれ」と言ひければ、「いや与次郎でござる。何しに福であらう。福は宵からよそへいたものを」とぞつぶやきける。

雄長老

  鬼は内福をは外へ出だすとも歳一つづつ寄らせずもがな

也足1)の判、「もつとも興あり。されども、たとひ年は一つ二つ寄らせ候ふとも、福を外へ出ださんこと、いかがと申すべくや。一笑一笑」。

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一 ある女房のもとにつかはるる下すの名を福(ふく)
  といふ有き大としのゆふへ下すにむかひ
  そちはよひから宿へゆきてやすみあすはとく
  をききたり門をたたけとひまをやりぬ夜も
  ふけすきて五更(こかう)にをよべともきたらすされとも
  門をたたくをとせりすはやと思ひたれぞといふ
  に返事なしあまりにたへかねて福かやれと/n1-67r
  いひけれはいや与次らて御さるなにしに
  ふくてあらふ福はよひからよそへゐた物
  をとそつふやきける雄長老
   鬼は内福をはそとへ出すとも
   とし一つつつよらせすもかな
  也足の判尤興ありされともたとひ年は
  一二よらせ候とも福をそとへ出さん事いかかと
  申へくや一笑々々/n1-67l
1)
中院通勝
text/sesuisho/n_sesuisho1-135.txt · 最終更新: 2021/05/31 11:07 by Satoshi Nakagawa