text:sesuisho:n_sesuisho8-122
醒睡笑 巻8 秀句
8 和泉の堺にてこれへ参る道に鈍なる男あり・・・
校訂本文
和泉の堺にて、これへ参る道に、鈍なる男あり。何やらん、手に持ちてゐたるを、横道(わうだう)なる者、通りざまにおつとり逃げ行く。「やれ盗人よ」と呼ばはれば、結句、「取りはせぬ。買うた」とあらがふ。誰も極むる者なうて、捕手(とりて)のものにぞ1)なりける。
「かれを見るに、たちまちわが物を奪はれても、所(ところ)に正路(しやうろ)なる地頭なくは、浅間しや、取られ損にこそならんずれ」と語るに、「取られても、取りても、隠れはあるまいが」と問ふ時、「されば、右申せしは嘘なり。まことは、今朝、鳶(とび)か魚をくはへ2)来たり。宿院(しゆくゐん)の内にて食らはんとするところに、松の上より烏飛び下り、これを奪ひ取り、木の上にて食らふ。鳶は『ひいるぬす人3)』と叫べば、烏は『かうた、かうた4)』と言うて、おのが徳にぞなしたる」。をかしげにて心深し5)。
「烏は鳥中の曽参(そうしん)」とあり。
翻刻
一 和泉の境にてこれへ参る道に鈍なる男あり何 やらん手に持てゐたるを横道なるものとをり さまにをつとり逃行やれ盗人よとよははれば/n8-46r
結句とりはせぬかうたとあらがふ誰もきはむる 者なふてとりての物こそなりけるかれを見る にたちまち我物を奪れてもところに正路なる 地頭なくは浅間しやとられ損にこそならん すれとかたるにとられてもとりてもかくれはある まいがととふ時されは右申せしはうそなり 実は今朝鳶か魚をくはん来り宿院の内 にてくらはんとする処に松の上より烏飛おり これをうはひとり木の上にてくらふ鳶は/n8-46l
ひいるぬす人とさけべは烏はかうたかうたといふて をのか徳にそなしたる おかしけにてこころふかし 烏は鳥中の曽参とあり/n8-47r
text/sesuisho/n_sesuisho8-122.txt · 最終更新: 2022/12/26 12:43 by Satoshi Nakagawa