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醒睡笑 巻1 鈍副子
3 日本一の鈍なる弟子が師の噂を言ふやう・・・
校訂本文
日本一の鈍なる弟子が師の噂を言ふやう、「坊主のいつもいろいろのことを言うて叱らるる中に、近ごろ聞こえぬ無理を三つ言はるる。一つはまづ、『おのれを、なんぼうの辛苦にて人にないた』と仰せある。われが犬の子にてもあらばこそ、生得(しやうとく)人の子にてあるを、『人にないた』とは何事ぞや。二つは、『いかほど気を尽して経を教へしその恩を、あだに思ふ』との折檻、これも言はるるところ道理にてはあれども、その習ひ読みたる経を、一字もわれが覚えばこそ、みな忘れ果てたるまま、少しも恩とは思はぬなり。三つは『寺・屋敷・資材・雑具、残りなくなんぢに取らするは』と仰せあれども、これまた少しも恩とは思はぬ。むつかしいに、取りてお帰りあらうまでよ。さあれば、三つながら、一つも坊主の道理はない」と。
あたをさへ恩にて報ふいはれあり恩を忘るる人は人かは
翻刻
一 日本一の鈍なる弟子か師のうはさをいふ やう坊主のいつもいろいろの事をいふて しからるる中に近比聞えぬ無理を三ついは るる一つはまつをのれをなんほうのしんく にて人にないたと仰ある我か犬の子にて もあらはこそしやうとく人の子にてあるを人/n1-46l
にないたとは何事ぞや二つはいかほと気 をつくして経ををしへしその恩をあたに おもふとのせつかんこれもいはるる処道理 にてはあれとも其ならひよみたる経を 一字もわれがおほえはこそみなわすれはてた るまま少もおんとは思はぬなり三つは寺 屋敷資材雑具残なくなんちにとらする はと仰あれともこれ又少もおんとはおもは ぬむつかしいに取ておかへりあらふまてよさ/n1-47r
あれは三つなから一つも坊主の道理はないと あたをさへ恩にてむくふいはれあり おんを忘るる人は人かは/n1-47l
text/sesuisho/n_sesuisho1-100.txt · 最終更新: 2021/05/13 22:55 by Satoshi Nakagawa