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醒睡笑 巻8 頓作
60 山岡道阿弥坂本より京に上る・・・
校訂本文
山岡道阿弥1)、坂本より京に上(のぼ)る。乗物八人にて、侍あまた連れ、いかめしく見えつるが、大津にて、向ふより座頭一人来たるに、ひしと行き当たり、棒の先、座頭の顔に当たる。打ち破れ血流るる。
「心得たり」と言ふまま、乗物にしかと取り付き、「この内にゐるはいかなる奴ぞ。ぜひ出でよ。果たさん」とののしるに、返事もなく、ややありて乗物の内より、「座頭、座頭、頬は痛むか」と問ふに、腹立(ふくりふ)いやまし散々悪口におよぶ。その時、「われは飛田検校(けんげう)なり。中間(ちうげん)過ちしたり。ぜひなし」と言ふに、座頭すなはち声を低(ひき)くし、「少しも苦しからじ。存ぜずして狼藉(らうぜき)申したる」と詫びけるに、「そちの学問所2)はいづれぞ。それを頼みて詫びん」とあれば、「ひらに御免あれ」と、かへりて手をすりけるとなん。
翻刻
一 山岡道阿弥坂本より京にのほる乗物八人 にて侍あまたつれいかめしく見へつるが大津に てむかふより座頭一人来るにひしと行あたり 棒のさき座頭の顔にあたる打破血流るる 心得たりといふ儘乗物にしかととりつき此内 にゐるはいかなるやつぞ是非出よはたさんとのの しるに返事もなく漸ありて乗物の内より 座頭座頭頬はいたむかととふに腹立いやまし/n8-26r
散々悪口にをよふ其時我は飛田検校也 中間あやまちしたり是非なしといふに 座頭すなはち声をひきくし少もくるしからす 存せすして狼藉申たると侘けるにそちの 学文所はいつれぞそれを頼てわびんとあ れはひらに御免あれと却て手をすりけるとなん/n8-26l
text/sesuisho/n_sesuisho8-060.txt · 最終更新: 2022/11/05 13:48 by Satoshi Nakagawa