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text:sesuisho:n_sesuisho1-130

醒睡笑 巻1 無智の僧

5 同じく千部講読の請状参りけるに一文不知の経たつ坊あり・・・

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同じく1)千部講読の請状(しやうじやう)参りけるに、一文不知(いちもんふち)の経たつ坊あり。使ふ小者を若松といふに向ひて、「このたびの出仕、生涯の大事と覚ゆるに、おのれねぶりをとどめ、わが後ろの方にきつとゐよ。もし呼ぶに、返事遅くは曲事(くせごと)ならん」と言ひ付け、かくて大衆の席に連なり、読経すでに始まり、「序品第一(じよぼんだいいち)」と付くるから、かの経たつ坊、「松若、松若」と、いかにも静かに言ふ。

連読少しも2)違(ちが)はざりしが、経しどろ読みの時、例の磬(けい)をひしと打ち切る。かの坊がただ一人、「松若」と読みたり。松若、「やつ」と返事するに、「お湯のまう」と。

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一 同千部講読(かうとく)の請(しやう)状まいりけるに一文不知(いちもんふち)の
  経たつ坊ありつかふ小者を若松といふにむ/n1-63r
  かひて此度の出仕生涯(しやうかい)の大事とおほゆるに
  をのれねふりをととめ我かうしろの方に
  きつとゐよもしよふに返事遅(をそ)くは曲事ならん
  といひつけかくて大衆の席につらなり読経
  すてにはしまり序品第(しよほんたい)一とつくるから彼経
  たつばう松若松若と如何にもしつかにいふ連
  読水もちかはさりしが経しどろよみの時例(れい)
  の磬(けい)をひしとうちきる彼坊が唯一人松
  若とよみたり松若やつと返事するに/n1-63l
  お湯のまふと/n1-64r
1)
前話参照。
2)
「少しも」は底本「水も」。諸本により訂正。
text/sesuisho/n_sesuisho1-130.txt · 最終更新: 2021/05/27 18:56 by Satoshi Nakagawa