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text:sesuisho:n_sesuisho5-043b

醒睡笑 巻5 上戸

1-b

校訂本文

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俗云はく、「生得酒の嫌ひか。また子細有りや否や」。

僧曰はく、「予は元来悪客なり」。

俗云はく、「これ霊地なり。衆峰環(めぐ)り峙(そばだち)て、万水清く流る。林茂して碧深く、花奇にして紅酣(たけなは)なり。異木葉を累(かさ)ね、群草英(はなぶさ)を飛ばす。この境、人を待つにはあらざるか。この時、可惜(あつたら)酒を愛さざるは、花に対して茶を啜る、殺風景の一なるかな1)。『但願得美酒、朋友常共斟。(ただ願ふ美酒を得て、朋友と常に共に斟まん。)』と柳文2)にも書きたり。又、『花間置酒清香発。(花間に酒を置けば清香発す。)』と。李白が詩、『花間一壺酒、独酌無相親。(花間一壺の酒、独り酌し相親ふ無し。)』と。今更に思ひ当れり。僧は下戸にて、友にも伽(とぎ)にも詮方無し」。

僧曰はく、「我が好む処は餅に在り。哀れ振舞ふ人あらば、飽満して慰まむ。『宴安鴆毒。不可思。(宴安は鴆毒なり。思ふべからず。)』と見えたる物を」。

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提物ヲ開キ飲テ進ム僧ニ今曾テ不取合俗云生得酒ノ
嫌ヒ歟又有子細否僧曰予元来悪客也俗云此霊
地也衆峯環リ峙テ万水清流ル林茂シテ碧深ク花奇ニシテ
紅酣ナリ異木累葉群草飛ス英不是境待人乎/n5-23l
惟時可惜(アツタラ)酒ヲ不ルハ愛対シテ花啜ル茶ヲ殺風景ノ一ナル我
但願得美酒ヲ朋友ト常ニ共斟ント柳文ニモ書タリ又
花間ニ置ケハ酒清香発ス李白カ詩花間一壺ノ酒独
酌ヲ無相親フ今更ニ思当レリ僧ハ下戸ニテ友ニモ伽ニモ無詮
方僧曰我好処在餅哀振舞人アラハ飽満而慰宴安
鴆毒不可思見ヘタル物俗云飢ニ不トハ撰糟糠実哉素/n5-24r
1)
「かな(哉)」は底本「我」。諸本により訂正。
2)
柳宗元の文。
text/sesuisho/n_sesuisho5-043b.txt · 最終更新: 2022/03/22 18:52 by Satoshi Nakagawa