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醒睡笑 巻3 清僧
3 百三十年あまりのあとかとよ筑前国宰府の天神の飛梅天火に焼けて・・・
校訂本文
百三十年あまりのあとかとよ。筑前国宰府1)の天神の飛梅(とびうめ)、天火に焼けてふたたび2)花咲かず。「こはそもあさましきことや」と、人みな涙を流し、知るも知らぬも集まりて、思ひ思ひの短冊を付け参らする中に、権梗坊とて勇猛精進(ゆめうしやうじん)なる老僧の詠める歌こそ殊勝なれ。
天をさへかけりし梅の根につかば土よりもなど花の開けぬ
短冊を木の枝に結びて、足をひかれければ、すなはち緑の色めきわたり、花咲く春に帰りしことよ。人々、感に堪えで、かの沙門を神とも仏とも手を合はせし。
「梅はこれわが愛木」と賞ぜさせ給ひ、
いづくにも梅だにあらばわれとせよたとひ社(やしろ)はありとなしとも
梅あらば賤(いや)しきしづか伏屋(ふせや)にもわれ立ち寄らん悪魔退け
翻刻
一 百卅年あまりの跡かとよ筑前国宰府の 天神の飛梅(とびむめ)天火にやけてふたこひ 花さかずこはそも浅ましき事やと人皆 涙(なみだ)をながししるもしらぬもあつまりて 思ひ思ひの短冊をつけ参らする中に 権梗(こんきやう)坊とて勇猛(ゆめう)精進なる老僧の よめる哥こそ殊勝なれ 天をさへかけりし梅の根につかば/n3-49r
土よりもなと花のひらけぬ 短冊を木の枝にむすひて足をひかれけれ はすなはち緑の色めきわたり花さく春 に帰りし事よ人々感(かん)に堪(たえ)てかの沙門を 神とも仏とも手を合せし梅は是我が 愛木(あひぼく)と賞せさせ給ひ いつくにも梅たにあらは我とせよ たとひ社はありとなしとも 梅あらは賤(い)やしきしつかふせやにも/n3-49l
われ立よらん悪魔しりぞけ/n3-50r
text/sesuisho/n_sesuisho3-102.txt · 最終更新: 2021/11/06 01:00 by Satoshi Nakagawa