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醒睡笑 巻1 謂へば謂はるる物の由来
11 和州より出づるぼてんといふ瓜は・・・
校訂本文
和州より出づる「ぼてん」といふ瓜は、延暦寺伝教1)の弟子慈覚大師2)、天長十年四十にて、身疲れ眼暗し、命久しかるまじきことを思ひわきまへ、叡山の北谷に草庵を結び、三年勤め行じて終りを待たれければ、ある夜、夢に天人来たりたり。「これ霊薬なり」とて与ふ。その形、瓜に似たり。半片を食す。その味、蜜のごとし。人ありて次ぐるやう、「これ梵天王(ほんてんわう)の妙薬なり」と。
夢覚めて、口中に余味あり。しかうして後、痩せたる形さらにすくやかに、暗きまなじりますます明らかなり。その半折を地にまきければ、まつたき瓜の生ぜし。
今の梵天(ぼんてん)これなり。『元亨釈書』に見えたり。
翻刻
一 和州より出るほてんといふ瓜は延暦寺伝 教の弟子慈覚大師天長十年四十にて 身つかれ眼くらし命久しかるましき事 をおもひわきまへ叡山の北谷に草庵を/n1-8l
むすひ三年つとめ行しておはりをまたれ けれはある夜夢に天人来りたりこれ霊薬也 とてあたふそのかたち瓜ににたり半片を食 すその味蜜のことし人ありてつくるやうこ れほんてんわうの妙薬なりと夢さめて口 中に餘味ありしかうして後やせたるかた ち更にすくやかにくらきまなしりますます あきらかなりその半折をちにまきけれは まつたき瓜の生せしいまの梵天これなり/n1-9r
元亨釈書に見えたり/n1-9l
text/sesuisho/n_sesuisho1-011.txt · 最終更新: 2021/04/01 22:31 by Satoshi Nakagawa