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醒睡笑 巻5 人はそだち
37 大名のもとに能あり人あまた見物に行く・・・
校訂本文
大名のもとに能あり。人あまた見物に行く。内はつまり、高塀の外にゐて、囃子の音ばかり聞く。
昼の過ぎに、芝居へ配る饅頭の、外へ落ちたり。山深き奥に住む者ども見付け、「これは異な物や。ただ今生まれたげで、あたたかな。天人の玉子であらうず。さらば、温めてかいを割らせう」とて、綿(わた)に包み、懐(ふところ)に持ち歩(あり)く。
日を重ぬれば青くなるまま、「天人の玉子ではない。むくりこくりが玉子にてあらうず。かいを割らぬ先に殺せ」と、雁股(かりまた)にて恐れ恐れ射切りたり。「さればこそ申さぬか。中に黒血(くろち)のかたまりが候ふは」。
翻刻
一 大名のもとに能あり人あまた見物に行 内はつまり高塀(たかへい)のそとに居てはやしの 音斗きくひるの過に芝居へくはる饅(まん) 頭(ちう)の外へおちたり山ふかき奥(おく)にすむ者 ども見つけ是はいな物や唯今生(むま)れた げであたたかな天人の玉子であらふすさら ばあたためてかいをわらせうとて綿(わた)につつみ 懐(ふところ)にもちありく日をかさぬれば青(あをく)なるま ま天人の玉子てはないむくりこくりが玉子/n5-69l
にてあらふずかいをわらぬ先にころせとかり またにてをそれをそれ射きりたりされば こそ申さぬか中にくろちのかたまりが候は/n5-70r
text/sesuisho/n_sesuisho5-104.txt · 最終更新: 2022/04/03 22:38 by Satoshi Nakagawa