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text:sesuisho:n_sesuisho1-139

醒睡笑 巻1 祝ひ過ぎるも異なもの

7 六十に及ぶ僧ありしが歳の暮れに風を少しひきければ・・・

校訂本文

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六十に及ぶ僧ありしが、歳(とし)の暮れに風1)を少しひきければ、「元日にてもあれ、焚き火に寄せ、背中をあぶらんには過ぎじ」と思案し、一人ある小僧に言ひ付けて、火をたかせけり。

小僧、「見られぬ今日の背中あぶりや。正月とて、わがごとき者どもの、互ひに遊び狂ふ日なるに」と、腹2)を立つ立つ薪(たきぎ)をくべ、ひたもの火を吹きければ、坊主を、頭(あたま)より着たるものにいたり、ことごとく灰にまぶせり。

老僧、つくづく見て気にかかり、小僧に、「祝うて俳諧の発句をせん」とあれば、「なかなか、よからん」と言ふ時、

  小僧めがふくとくわれに吹きかけて

小僧、やがて「脇(わき)をつかまつらん」とて、

  坊主を見れば灰にこそなれ

と付けたり。

いらぬ祝事(いはひごと)や。

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一 六十にをよふ僧ありしか歳の暮に風を少
  ひきけれは元日にてもあれたき火によせせ
  なかをあふらんには過しと思案しひとりあ/n1-69l
  る小僧にいひつけて火をたかせけり小僧見
  られぬけふのせなかあふりや正月とてわかことき
  者とものたかひにあそひくるふ日なるにとはち
  をたつたつ薪をくへひた物火をふきけれは坊主
  をあたまよりきたる物にいたりことことくは
  ひにまふせり老僧つくつく見て気にかかり
  小僧にいはふてはいかいの発句をせんとあれ
  は中々よからんといふ時
   小僧めかふくとくわれにふきかけて/n1-70r
  小僧やかてわきを仕らんとて
   坊主をみれははひにこそなれ
  とつけたりいらぬいはひ事や/n1-70l
1)
風邪
2)
「腹」は底本「はち」。諸本により訂正
text/sesuisho/n_sesuisho1-139.txt · 最終更新: 2021/06/04 11:45 by Satoshi Nakagawa